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Chapter 0

Section 5: 明日への抵抗

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(PSIデバイス――、フルドライブ……、全理力を拳撃に収束――)

 ズドン!

 ジオの高速拳が翼竜型バインダーの重装甲を打撃する。
 この時代の機動兵器は、強固で柔軟かつ軽量な特殊樹脂装甲が使われている。
 西暦2000年代の最新装甲など足元にも及ばない強靭な装甲であり、あらゆるバインダーが何もなしに単独大気圏突入が可能、と言うことでもその性能の高さが伺い知れる。
 すなわち、そもそもが単純な対人火器類やまして、拳の一撃で貫くなど不可能であるはずのモノであり――、それを貫けるということが、ジオの拳がかつての120mm戦車砲を倍する威力を持つ証左である。

 PSIデバイス――、それは有機炭素人類とされるオーガヒュームの固有能力――、PSI能力を形ある力として再定義する機器である。
 それはかつて、地球人類が超能力に覚醒した時代に基礎が作られた技術であり、現在は無害な純粋力として調整されているPSI能力を、正しく誘導するための機器でもある。
 この機器とPSI能力により、大抵のオーガヒュームは銃火器無しでそれらを装備しただけの戦闘員に比肩する能力をもっている。
 特定の銃火器――、例えばブラスター等の高性能火器を除いて、そうしたPSIデバイス所持者に対抗する手段はなく、それが有機炭素人類――、オーガヒュームを戦士系人類と冗談交じりに呼ぶ理由なのである。

 一般にPSI能力は1から8までのランクで示される。
 1と2は弱めのPSI能力者であり、PSIデバイスを用いても護身用武器程度の戦闘能力しか発揮しない者である。
 彼らは明確な弱者として、大抵の場合、戦闘から離れた職につく人々である。
 3は最も一般的なオーガヒュームであり、戦闘要員としては銃火器装備のエレメンタルとほぼ互角の実力を持つ者である。
 4と5は強めのPSI能力者であり、PSIデバイスの調整によって重武装の戦闘員と互角に渡り合える戦士階級である。
 そして6は、一般に人型バインダーを除く局地戦用機動兵器と互角の戦闘能力を有する”通常兵器級”の戦士とみなされる。
 次の7は人型バインダー及び、大型の戦術級兵器類、例えば海上軍艦等の”戦術兵器”と互角と見なされる能力者の上澄みである。
 最後の8は一つの都市を消滅させうる、いわゆる”戦略兵器”と同質の存在と見なされるオーガヒューム最高位の戦士階級である。

 これらのPSI能力は、装備するPSIデバイスの種類によって機能をある程度変化させることが可能であるが、さらに言うと人型外骨格と同化された特殊PSIデバイスによって、その外骨格の大きさに準ずる値に出力を増強する効果を持っている。
 そういった外骨格型PSIデバイスは、PSI能力を血流のように人形外骨格全体に流して、その機能を増強することを基本に設計されている。
 このため、この時代における最強の兵器のカタチは、人型であることが常識であり、それは代表的な機動兵器であるバインダーでも同じことであった。

【く……、陸戦バインダー部隊はまだか?!】

 機械の翼竜が次々に撃墜されてゆく、それはまさに彼らバインダー装備のエレメンタルにとっては悪夢と同じである。
 機械の体を有するだけのエレメンタルでは、どのように武装を強化しても、単純戦闘能力において戦士階級のオーガヒュームを超えることは出来ない。
 彼らはいわば、その高機動で先行して、後続部隊の進む道を整えるのが役目であり――、

「後続部隊が到着する前に――、貴様らを叩き潰す」

 目前の、ジオクラスのPSI能力者と直接やり合うのは、彼らの役割から外れた行為なのである。

【隊長――、ここは一旦後退を……】
【それをすれば、ヴェロニア様からどのような叱責を受けるか……、判るだろう!!】
【それは……】

 彼らにとっては、目前のジオよりヴェロニアの方が恐怖の対象である。だから不利な状況にあえて前進するしかなかった。

【……歩兵は?!】
【銃器装備の歩兵部隊が、すでに倉庫内に突入してはいます】
【状況は?】
【それが……】

 隊長の言葉に副官が押し黙る。その様子にその隊長はバインダーの中で憎々しげな表情を作った。


◇◆◇


「ソキウス・イティネリス――!」

 ミィナがそう叫ぶと、その身に纏っている外套の中から、小さな二機のドローンが飛び出す。
 それが空中へと飛翔するのを見届けたミィナは、高らかに呪文を詠唱し始めたのである。

「In the name of my bloodline, I control sorcery!」

 その瞬間、空中のドローンが光を放ち駆動音を周囲に響かせ始める。そして――、

「unlocking key.Offensive Disarmament!」

 その瞬間、彼女の前方で銃を構えていた兵士たちの持つ銃火器が、火花を発しながら暴発してゆく。
 それは兵士たちに少なくない傷を与えて、その場に転倒させたのである。

「くそ! あいつ……エレメンタルの戦術魔道士か!」

 それに対してミィナが答える。

「いや……、ただの治療士だよ。これでも……」

 その背後ではロバートやティアナが、その手に持ったブラスターを兵士たちに向けて放っている。

「なんとか持ちこたえてはいる……が、このままじゃ身動きが取れん」

 そういうロバートの言葉にティアナが答える。

「少しでも隙が見えれば――、地下の航宙挺まで後退して、そのままここを脱出できるのに」
「ああ……、ミィナちゃんの魔法も、そう連発できんから――、参ったな」

 ブラスターのエネルギーパックを交換しつつ答えるロバートに、ティアナは申し訳無さそうな顔を向けた。

「ごめんなさい。間違いなくコイツらは、ヴェロニアの……、私を捕まえるために来た奴らだから――」
「は……、気にするな。大事な倉庫をぶっ壊された以上、奴らは俺にとって明確な敵だ」

 そう言って笑うロバートの頬を、敵兵のブラスターの光弾がかすった。

「おやじさん……! 大丈夫?!」
「はは……、掠ったが――、大丈夫」

 ミィナの叫びにロバートは、頬を引きつらせながら答えた。
 ――と、その時、

「おやじ!!」
「?!」

 不意に兵士たちとは真逆の方向から男の声が響いた。
 倉庫の瓦礫を避けて現れたのは――、

「お前ら……」

 その新しい人影に驚きの目を向けるロバート。それもそのハズ――、

「おやじ!! 俺達が援護する! ここから逃げろ!!」

 そう叫んでブラスターを撃ちまくるのは、あの元地球軍軍人たち……。エリオット達、四人の男たちであった。

「な……、なんで?」

 その光景にミィナが驚きを隠せない。そのミィナに笑顔でジェレミアが答えた。

「助けに来たよ! 美しいお嬢さん!! ……お嬢さんを傷つけようとするクズどもは私に任せてくれたまえ!!」
「え……、うつく……」

 少し頬を赤くしながらミィナはそう呟き――、そして……、

「……とにかく、よくわかんないけど、ありがとう」

 そう言って男たちに笑顔を向けた。
 それを見てジェレミアは――、

「はははは!! 美少女の笑顔で勇気百倍! 失せろクズども!!」

 そう言ってその手のブラスターを振り回し。それを見てエリオットは呆れ顔で言った。

「ジェレミア……、無駄に頭を上げるな! あたって死ぬぞ!!」
「ははは!! 今の私は無敵ですとも!」

 エリオットは仕方がないので、無理やりジェレミアを殴り飛ばしてその場に伏せさせた。

「急げ!! おやじ!」
「いや……、この地下に――」

 ロバートの言葉にエリオットは首を傾げる。

「この地下に航宙挺があるんだ! それで……」
「……! わかった、そこまで後退――、それまでは俺等が兵士共を引き付ける!」

 エリオットの言葉にロバートは頷いてからティアナを見た。

「行こう!」
「はい!」

 そのまま二人は、地下への階段を降りてゆく。それを見届けてから、エリオットは後ろの仲間たちに命令を下した。

「おやじが航宙挺を起動させるまでここを死守しろ! その後、その航宙挺でこの場を脱出する!!」
「「「了解!!」」」

 他三人はそうエリオットに答えた。
 その光景を一瞬笑顔で見つめてからミィナは空へと目を向ける。

「お兄ちゃん! あと少し――、あと少しだけバインダー部隊を抑えていて……」

 その視線の先には、機械の翼竜と空中戦を繰り広げる兄の姿が見えていた。


◇◆◇


【……どうも、敵に強力なPSI能力者がいるらしいな】
【少なくともPSIクラス7……ですか?】
【……。だが、我らが来たからには……】

 惑星クランの市街地を全長4、5mの人型が走ってゆく。
 それは――、ヴェロニアの海賊団が所有する、陸戦バインダー部隊。PSIデバイス機能を付与された人型バインダーを駆るオーガヒュームの一団であった。
 ……PSIデバイス機能を付与された人型バインダーは、オーガヒュームのPSI能力を極限まで強化することが出来る。
 それは――、個人で得られる最大の戦闘能力であり、それを装備していないオーガヒュームでは、普通は到達できない領域の戦力であった。

【何人であろうと……ヴェロニア様の邪魔はさせぬ】

 その人型機械の輝く瞳が、空を舞うジオの姿を捉える。

【殲滅せよ――。抵抗する者は、皆殺し――である】

 その冷酷無比な言葉が――、雪の舞うクランの空に響いては消えていった。
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