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前略、実戦と誤解と

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「はぁ……はぁ……大丈夫……?」

「ひぇっ……!」

「落ち着きなさい。あなたのせいで、大丈夫じゃない悲鳴をあげてるじゃないですか」

 違うの、思ったよりも距離があったからで、あと背中のカゴが重かったからで。
 誓って目の前の少女に興奮したわけではない………本当だよ?
 
女の子はちょっと近所まで、なんてラフな格好で魔物のでる草原にいた。背負っている大きなリュックが目を引く。

「それに、襲われるのは今からです」

 振り返ると、さっきまで誰もいなかった草原に不穏な影。大型犬のような魔物が現れていた。

「えぇ……最初はスライム的な魔物じゃないの?もっと基本的やつ……」

「バクバクは基本的な魔物です」

 どうやらこの大型犬達はバクバクというらしい。確かにバクバク食べそう、人間とか。

「それでは実戦開始です」

「あの……お手本とかは……」

 初陣だ、もしかしたら助けてくれるかも…
 淡い期待を込めてリリアンを見てみる。

「そんなものはありません。甘えないで下さい。それに、戦い方なら教えてあげたでしょう?」

 デスヨネー、この数時間の特訓を思い出す。
 リリアンはなかなかにスパルタだった。確かに剣なんて、生まれて初めて持ったけれど、それに振り回されてる感じはしない。
 
まるで自転車の乗り方のように、泳ぎ方のように、昔から経験があったかのように、忘れられない技術のように。
 あたしの中にしっかりと根付いている。これがこの世界における『習得』なんだろうな。 

 リリアンが教えてくれたのは、武器の使い方ではなく戦い方、歩きながらの淡々とした話し方だったけど、わかりやすく、為になる講義だった。
 あたしのカゴに石を入れながらだけど……

「そんじゃあいっちょいきますかー!」
 

 それでもなんだか、頑張れそうに感じるんだからあたしって単純。
 思い入れのある掛け声、気合が入る。
 あ、それはそうと。

「カゴ、降ろしてもいい?やっぱり重いよこれ」

「許可します。初陣で死なれても困りますから。女の子の方は私が見てましょう。あなたは目の前の敵に集中して下さい。ちなみに、手伝いませんよ」

 そう言ってリリアンは下がる、女の子の前に、女の子は少し怯えてその影に隠れている。
 
 助けてくれないのは残念、でも心強いな。少し息を止め、構える。
 
あたしは盾を持ってないし、突きに適した剣でもない。基本は半身に構えて左手はなにかあっても対応できるようにフリー、後は自分なりの構えで。

 先手必勝!1番近くのバクバクへ渾身の薙ぎ払い!

「せいっ!!」

 反応を超えたあたしの剣に、大きく吹き飛ぶバクバク、やったね!大成功!

 すかさず残りの2頭の方を向く、仲間が倒されたことに危機感を覚えたのか、同時にあたしの方へ駆け出した。
 それならそれで構わない。
 
「ネオスティアにきてから死んだり、気を失ったりばっかりだけどさ」

 左手に握りこんだ手頃な石2つを投げる、1つは外れたけど、もう1つは見事に命中。

「本来、運動神経も反射神経も、そんなに悪くないんだよ!」

 石の当たらなかったバクバクの方を向く、向かい合い、あたしを傷つける牙や爪をみて恐怖を覚える。でも…

「後ろにいる悪魔の方が!何倍も怖い!」

 実際に殺された身としては、こんなのなんでもない!
 軽く当て、距離を取ろうとしたけど、バクバクは怯まない。それなら!

「突く!」

 突き、長くはないから向かないとは教えられている、同時に当たればどこでも致命傷だってことも!
 バクバクの牙より早く、あたしの剣がその身体に届いていた。

 石を当て、怯ませた残りの1頭に目を向けると、仲間を倒されたことから。戦意喪失したみたい、こちらに向かってくる気配もない。

「行きなよ、わざわざ追いかけたりもしないよ」

 言葉が通じるかわかんないけど、とりあえず、戦わずに済むのが1番だもんね。

 ジェスチャーが通じたのか、バクバクはあたしに背を向けて走りだそうとした瞬間ーーー

 あたしのすぐ横を強烈な風が通りすぎ、バクバクを跡形もなく消し飛ばした。

 振り返れば、黒い大剣を携えたメイドが、リリアンがはじめて出会ったときのような、なにかに苛立ったような表情で立っていた。

「甘いですね。甘すぎます」

「この場合は優しいって言ってほしいな」

 少しだけ、ほんの少しだけ納得がいかなくて。言い返す。今のはやらなくて良かったことだ。

「そんな考えだから、死ぬんです」

「死んだって曲げられないことはあるよ」

 それは、リリアンもわかっていることなのに。
 近づいてくるリリアンに、あたしも向かい合う。 

「あの…お姉さん達……」

 言い争うあたしたちに、女の子がおずおずと間に入ってくる。
 おっと、子供の前で喧嘩はよくないね。反省。

「あぁ、ごめんごめん、怪我はない?」

「ありがとうございました」

 きちんとお礼が言えて偉いなぁ、子供は素直でいいよね。

「えっと……ノノっていいます。この先の村に住んでいて、なにも持たずに来てしまったので、助かりました」

 ペコリ、と頭を下げる。可愛らしい仕草に思わず頬が緩む。よきかなよきかな。

「ロリータコンプレックスというものですね。知ってます」

「違うよ!?」

 なんてこと言うのこのメイド!?やめてよ!変なことを吹き込むの!

「えと……お姉さん達は旅の途中ですか?でしたらお礼もしたいのでわたしの村まで来てほしいです!」

 願ってもない提案だ、歩きっぱなしでそろそろ疲れたし。
 多分このままだと、当たり前のように野宿させられるだろう。

 あとはリリアンから許可がでるかだけど…… 
 チラリとリリアンの方を見る。

「ありがとうございます。ノノさん、安心して下さい。この少女愛好家は、私が責任をもって見張りましょう」

「だから違うって!」

 だいたいなんでそんな言葉を知ってるんだこのメイド。
 そもそもそんなこと言ったら、リリアンもロリコンの恋愛対象に含まれてしまうと思うんだけど…

「あはは…それじゃあ行きましょう!黒いお姉さんと……」

 思わずノノちゃんも苦笑い。黒いお姉さんがリリアンだとしてあたしは……口籠っちゃうところをみると、いい特徴が見つからなかったのだろう。
 
ふむ、確かに高そうではないけど、普通の?冒険者って感じだろう。新米のお姉さんとかどうだろう?
 助け船をだすため名乗ろうとしたところ…

「みすぼらしいお姉さん!」

 どうやらノノちゃんは大分失礼だ。
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