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「姫様、あの……姫様の横で、寝てもいいですか……」
この旅でルカは身体を横たえたことはない。
ウトウトはしてもちゃんと眠ってもいなかった。それが初めて横になりたいと言い出した。
クロフスを出て、やっと安心出来ているからだろう。
ルカが照れながら俯いて言うのでスヴェトラーナも照れたが、そう出来るようになったのなら一緒に眠りたい。
「はい。一緒に」
いつもの様にルカのマントでスヴェトラーナを包み、ルカは自分の荷物を枕にして横になった。
スヴェトラーナがすり寄ると、ルカは迎え入れ腕を枕にして優しく身体を包んだ。
逞しい腕の中でルカの肩に顔を寄せると、スヴェトラーナの肩を抱いていた手が更に身体を引き寄せもう片方の手で頬を撫でた。
くすぐったくて笑うと、ルカは微笑んだ。
「撫でてみたくて」
「いいのです。嬉しいから」
頬を撫でた手が頭を撫で、スヴェトラーナは気持ちが良くて目を閉じた。
「ルカ、私を離さないでください」
「はい」
「共に生きてください」
「姫様を幸せにします」
「絶対に、離さないでください」
「はい」
ルカはスヴェトラーナが眠りに着くまでずっと髪を撫でていた。
翌朝腕の中で目を覚ました。
ルカを見るとすでに起きてスヴェトラーナを見つめていた。
「おはようルカ」
「おはようございます」
ルカがスヴェトラーナの頬を撫でる。
「撫でたくて」
「毎日そうしてください」
ルカは微笑み、スヴェトラーナの頬をもう一度名残惜しそうにゆっくりと撫でた。
「起きましょう。最後の日です」
言いながら起き上がるルカの腕をスヴェトラーナが掴んだ。
最後という言葉にギクリとしたのだ。
「最後では、ありません」
「すみません。言い方を間違えました。到着の日です」
「最後ではありませんね?」
「始まりの日、ですね」
「そうです。ふたりの旅が新たに始まる日です」
「はい」
ルカの言い方に不安を覚えたスヴェトラーナは掴んだ腕を離せない。
するとルカは掴まれていない方の手でスヴェトラーナの身体をヒョイと持ち上げた。
「きゃっ」
「しっかり掴まってください」
ルカが楽しそうに笑いながら持ち上げたスヴェトラーナを抱き直して、そのままハロペスの都市を見下ろせるところまで連れて行った。
スヴェトラーナはルカの首に掴まりながら、笑うルカを見てホッとした。
「見てください。あそこに見える街まで行きます。きっと無事に到着しています。予定では二~三日前には着いているはずなので。姫様を待っていらっしゃいますよ」
「はい。きっとみんな無事でいてくれると信じます」
「朝食はグレタゴのおばあさんのくれた物を全部食べてしまいましょう」
「はい。そうしましょう」
ルカはスヴェトラーナを下ろして残りの食材をすべて広げた。
予定通り行くとは限らなかったので慎重に食べた結果、きちんと最終日まで残った。
「姫様をこの旅で痩せさせてしまいました」
「ルカのおかげでこの程度で済んだのです。ルカも、痩せました」
「俺は、これくらいが丁度いいので。それに、食べればすぐに太ります。食べましょう」
「はい」
食事をする間も、ルカはスヴェトラーナを見つめ続けていた。
愛おしそうに楽しそうに。
スヴェトラーナはあまりにルカが甘いので照れてしまうのだが、そうすると笑ってスヴェトラーナの頬を撫でた。
こんなに愛情を隠さないルカなのに、なにかが引っかかる。
胸の奥に小さな引っ掛かりがある気がする。
「ルカ、私を離さないでください」
「姫様はずっと同じことを言っています」
「だって、本当に離さないで欲しいのです」
ルカは笑った。
手を伸ばしスヴェトラーナのまた頬を撫でる。
*****
野営した高台からハロペスの街は思った以上に近かった。
ルカは随分ゆっくりとした足取りで歩いたが、昼過ぎには到着した。
無事ならば先に到着している者が見つけてくれるはずなので、ルカはスヴェトラーナを乗せた馬を引きながらゆっくりと街を歩いた。スヴェトラーナも知っている顔がないかを見渡していた。
賑やかな通りを一周しても見つからないので、スヴェトラーナの顔が曇る。
もしかして無事に到着出来なかったのだろうか。
まだ到着していないだけなのか、到着出来なくなってしまったのか。
胸の中を嫌な緊張が締め付ける。
不安を察したルカが鞍を握るスヴェトラーナの手を握った。
「姫様、諦めてはいけません。信じましょう」
ルカの言葉に頷いたその時だった。
ルカは強く肩を掴まれ咄嗟に肘を立て相手に向かって思い切り引いた。
その肘はガシっと掴まれ止められる。
振り向いて顔を見ると、ルカの肘を止めた男の正体がわかった。
「ヴィクトール団長……」
「スヴェトラーナ姫、ビンセヴ。よく無事だった」
逢えた!見つけてくれた!
スヴェトラーナは口を両手で押さえ息を呑んだ。
「大公妃様たちは? ご無事ですか?」
ルカがヴィクトールに向き直り聞く。
ヴィクトールは大きく頷き笑顔を見せた。
「途中二人を失ったが、他は無事だ。無事国を出てレイルズにいる! 一昨日の夜に着いて、亡命要請が受け入れらていたため国境付近で今保護してくれているイグナシオ侯爵の私設兵が迎えてくれたのだ」
ヴィクトールも感極まっているようだ。
ルカとガッシリと抱き合い、スヴェトラーナを見上げた。
「大公妃のところまでお連れします」
「ありがとうございます。本当に、よく母と弟を守ってくれました」
「厳しい旅でしたが、こうやって再会出来ることを信じていました。さあ、行きましょう。ご案内します」
スヴェトラーナは頷き、ルカを向いた。
ルカはスヴェトラーナに微笑んで頷いた。
これでスヴェトラーナの心に案ずるものが無くなった。
母や弟に逢い、思い残すことなくルカと生きて行ける。
この旅でルカは身体を横たえたことはない。
ウトウトはしてもちゃんと眠ってもいなかった。それが初めて横になりたいと言い出した。
クロフスを出て、やっと安心出来ているからだろう。
ルカが照れながら俯いて言うのでスヴェトラーナも照れたが、そう出来るようになったのなら一緒に眠りたい。
「はい。一緒に」
いつもの様にルカのマントでスヴェトラーナを包み、ルカは自分の荷物を枕にして横になった。
スヴェトラーナがすり寄ると、ルカは迎え入れ腕を枕にして優しく身体を包んだ。
逞しい腕の中でルカの肩に顔を寄せると、スヴェトラーナの肩を抱いていた手が更に身体を引き寄せもう片方の手で頬を撫でた。
くすぐったくて笑うと、ルカは微笑んだ。
「撫でてみたくて」
「いいのです。嬉しいから」
頬を撫でた手が頭を撫で、スヴェトラーナは気持ちが良くて目を閉じた。
「ルカ、私を離さないでください」
「はい」
「共に生きてください」
「姫様を幸せにします」
「絶対に、離さないでください」
「はい」
ルカはスヴェトラーナが眠りに着くまでずっと髪を撫でていた。
翌朝腕の中で目を覚ました。
ルカを見るとすでに起きてスヴェトラーナを見つめていた。
「おはようルカ」
「おはようございます」
ルカがスヴェトラーナの頬を撫でる。
「撫でたくて」
「毎日そうしてください」
ルカは微笑み、スヴェトラーナの頬をもう一度名残惜しそうにゆっくりと撫でた。
「起きましょう。最後の日です」
言いながら起き上がるルカの腕をスヴェトラーナが掴んだ。
最後という言葉にギクリとしたのだ。
「最後では、ありません」
「すみません。言い方を間違えました。到着の日です」
「最後ではありませんね?」
「始まりの日、ですね」
「そうです。ふたりの旅が新たに始まる日です」
「はい」
ルカの言い方に不安を覚えたスヴェトラーナは掴んだ腕を離せない。
するとルカは掴まれていない方の手でスヴェトラーナの身体をヒョイと持ち上げた。
「きゃっ」
「しっかり掴まってください」
ルカが楽しそうに笑いながら持ち上げたスヴェトラーナを抱き直して、そのままハロペスの都市を見下ろせるところまで連れて行った。
スヴェトラーナはルカの首に掴まりながら、笑うルカを見てホッとした。
「見てください。あそこに見える街まで行きます。きっと無事に到着しています。予定では二~三日前には着いているはずなので。姫様を待っていらっしゃいますよ」
「はい。きっとみんな無事でいてくれると信じます」
「朝食はグレタゴのおばあさんのくれた物を全部食べてしまいましょう」
「はい。そうしましょう」
ルカはスヴェトラーナを下ろして残りの食材をすべて広げた。
予定通り行くとは限らなかったので慎重に食べた結果、きちんと最終日まで残った。
「姫様をこの旅で痩せさせてしまいました」
「ルカのおかげでこの程度で済んだのです。ルカも、痩せました」
「俺は、これくらいが丁度いいので。それに、食べればすぐに太ります。食べましょう」
「はい」
食事をする間も、ルカはスヴェトラーナを見つめ続けていた。
愛おしそうに楽しそうに。
スヴェトラーナはあまりにルカが甘いので照れてしまうのだが、そうすると笑ってスヴェトラーナの頬を撫でた。
こんなに愛情を隠さないルカなのに、なにかが引っかかる。
胸の奥に小さな引っ掛かりがある気がする。
「ルカ、私を離さないでください」
「姫様はずっと同じことを言っています」
「だって、本当に離さないで欲しいのです」
ルカは笑った。
手を伸ばしスヴェトラーナのまた頬を撫でる。
*****
野営した高台からハロペスの街は思った以上に近かった。
ルカは随分ゆっくりとした足取りで歩いたが、昼過ぎには到着した。
無事ならば先に到着している者が見つけてくれるはずなので、ルカはスヴェトラーナを乗せた馬を引きながらゆっくりと街を歩いた。スヴェトラーナも知っている顔がないかを見渡していた。
賑やかな通りを一周しても見つからないので、スヴェトラーナの顔が曇る。
もしかして無事に到着出来なかったのだろうか。
まだ到着していないだけなのか、到着出来なくなってしまったのか。
胸の中を嫌な緊張が締め付ける。
不安を察したルカが鞍を握るスヴェトラーナの手を握った。
「姫様、諦めてはいけません。信じましょう」
ルカの言葉に頷いたその時だった。
ルカは強く肩を掴まれ咄嗟に肘を立て相手に向かって思い切り引いた。
その肘はガシっと掴まれ止められる。
振り向いて顔を見ると、ルカの肘を止めた男の正体がわかった。
「ヴィクトール団長……」
「スヴェトラーナ姫、ビンセヴ。よく無事だった」
逢えた!見つけてくれた!
スヴェトラーナは口を両手で押さえ息を呑んだ。
「大公妃様たちは? ご無事ですか?」
ルカがヴィクトールに向き直り聞く。
ヴィクトールは大きく頷き笑顔を見せた。
「途中二人を失ったが、他は無事だ。無事国を出てレイルズにいる! 一昨日の夜に着いて、亡命要請が受け入れらていたため国境付近で今保護してくれているイグナシオ侯爵の私設兵が迎えてくれたのだ」
ヴィクトールも感極まっているようだ。
ルカとガッシリと抱き合い、スヴェトラーナを見上げた。
「大公妃のところまでお連れします」
「ありがとうございます。本当に、よく母と弟を守ってくれました」
「厳しい旅でしたが、こうやって再会出来ることを信じていました。さあ、行きましょう。ご案内します」
スヴェトラーナは頷き、ルカを向いた。
ルカはスヴェトラーナに微笑んで頷いた。
これでスヴェトラーナの心に案ずるものが無くなった。
母や弟に逢い、思い残すことなくルカと生きて行ける。
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