人質王女の恋

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最終話

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 宮殿の広場に国民が大挙し、今か今かと待ち侘びている。
 宮殿の敷地に入りきれない人々が街にも溢れ、見渡す限りでは収まりつかないほどだ。
 特設された舞台の前には衛兵が正装で並び、その横に騎馬隊が広場を囲むように配置されている。
 待ち侘びる人々は国旗や花を手に興奮した面持ちだ。
 宮殿の中にある礼拝堂から鐘の音が聞こえてしばらく、特設舞台の上に公爵位の貴族が並び始める。
 その中には国王の弟デイビットや叔母シャーロットの姿もある。
 続いてグルシスタ王国の国王。その後ろから王妃と王子・王女が姿を現すと、歓声が沸き歓迎が口々に叫ばれた。
 初めて見るグルシスタ国王オーギュストは噂通りの温厚な人柄をその笑顔で見せ、群衆のなかに沢山のグルシスタの小旗が降られているのを見て胸を熱くしていた。
 家族が全員ここに来ることが出来たのは、国王一家が留守にしても不安がないようグルシスタの城に軍隊を配置したヒューブレイン側からの配慮のおかげだ。

 いよいよの登場で群衆の興奮が頂点に達する。
 国王アスランにエスコートされ、本日正式に王妃となったミシェルが姿を現す。
 礼服に勲章を付けた国民の誇る若き国王の横に立つ、長袖で肌の露出のほとんどない清楚で質素な純白のドレス姿のミシェルを見る。
 初めて見る我が国の新しい王妃。
 興奮で満ちていた群衆が静まり返る。
 目の前に立つその姿に群衆は動揺し、次に理解し、最後に歓迎の叫びをあげた。
 質素で謙虚な美しいこの女性はきっと国民を愛し寄り添う王妃になると理解し、確信したのだ。
 地面が揺れるほどの声に舞台上の誰もが驚き、感動し、笑い合った。
 大歓声に手を挙げ感謝を示すと、更に地響きが大きくなる。
 ミシェルは受け入れられた感動で胸を熱くし、少しでも感謝が届くように手を振り続けた。
 アスランは誇らしく思っていた。
 国民に対しては、自分の選んだこの素晴らしい王妃のことを。
 そしてミシェルには、この喜びにあふれたわが国民たちを。



 *****



 純白のドレス姿が描かれたミシェルの物語がヒューブレインとグルシスタで出版され、両国でベストセラーとなった。

「続編の主人公はアンジェラ様ですよ」

 読み聞かせをしていたルリーンが言うと、今年で五歳になる王女アンジェラは父親にそっくりのグレーの瞳を嬉しそうに輝かせ母親ゆずりの穏やかな微笑みを見せた。

「わたしにも魔法使いは現れるかしら?」

 王女の小さな耳に顔を寄せ、ルリーンはこっそり教える。

「もうすぐそばにいますよ」
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