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開闢の始まり

間奏3

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「先生、大丈夫ですか?」

「ありがとう。君のお陰で助かったよ。老体だがやるべき事がある内はまだ逝けないからね。」

「そんな笑えない冗談はやめてください!」

本の海からスリロスを引き上げる。
とっさに張っていた矮小な結界でも、案外何とかなるもんだ。

「それで、今の地震は?」

「はて、私の長い人生でもあんなに大きいのは初めてですな。」

どうやらスリロスにも心当たりはない様だ。
ともなると、自然災害の線はごく薄くなった。
このビシビシと全身を打つ強大な魔力を鑑みても『人災』という事である。
心做しか図書館の外まで騒がしくなってきた気がする。

「じゃあ先生、私行きますね。」

「あぁ、大丈夫だとは思うが気をつけて。」

先生が一人で本を片付け始めたのを見てから、図書館の外へと歩みでる。


廊下を走っている生徒達は何かに怯えながら、手を取り合って逃げてきた様だ。

まぁ、ここから見ても異変の主だと思われる物は確認できた。
中庭であろう場所に突き刺さる余りにも巨大な黒き棺。
そしてその天辺に座る黒いフード付きローブを身に纏った何か。

「あれは...。」

とりあえず、戦況把握。
と、感知魔法を中庭まで伸ばしてみる。

棺の開いた部分から、夥しい数の魔物が解き放たれている様だ。
しかし、恐らくサーリフやラファル、ボリス等の戦える生徒や教職員の奮闘によって犠牲者はゼロに抑えられている。
どうやらフェイリスとスプリウェルも近くで戦っている様だ。

「ハッ、青春は終わったか?」

「ランさん、余りいじると可哀想ですって。」

「ランちゃん!テンニーン!!」

どこからか現れた二人も遠くの出来事を観察している。
逃げ惑う生徒達の中、三人だけが動かない。

「これは...スプリウェル様とフェイリスが居ると言っても、力をセーブした状態じゃ厳しそうですね。」

「あぁ、ありゃ『魔族』だな。」

元凶はどうやらあの黒フードの『魔族』らしい。
魔族とは、魔力と身体能力のどちらも兼ね備えた凶暴な人種だ。
一時は五大古龍と戦う為に人間と共に暮らしていたが、今は断交されている筈。

「その魔族がどうしてここに?」

「さぁな、人間が憎くなったんじゃね?」

「というか、本人に聞いた方が早いですよ。」

それもそうか、と、テンニーンの意見に同意したメイ。
三人は顔を見合わせて頷き、跳躍した。


ギンッッッッッッ


テンニーンは剣で、デミドランは拳で、メイは銃槍で、最初の一突きを見舞おうとしたのだが、赤紫の結界に阻まれた。
三人は小手調べとはいえ、初撃を防がれて目をパチクリさせている。


「あー、おっかない!」


やや中性的な声でおどけて見せた魔族は、フードを取って立ち上がる。
クリーム色のショートヘアの『彼』。
瞳は黒色で、身長はメイと同じ位か。

「いきなり攻撃してくるなんて酷いじゃないか!」

ニヤニヤとした笑みを貼り付けた顔は、決して怯えてなどいない。

「先に仕掛けたのはそちら側では?」

テンニーンの指摘に、少しムッとしている。

「フンッ、劣等民族が気安く話しかけるな。」

鼻で笑い、三人を嘲る。
表情から察するに、本当に不快なのだろう。

「ボクの役目はもう終わり。せいぜい楽しんでくれたまえ。」

変わらぬにやけ面を残し、ローブで身体を包もうとする。
転移か何かするつもりなのだろう。

「おい待てよ?魔族のお坊ちゃんよぉ!」

デミドランがもう一撃加え、結界をぶち破る。
そして魔族の腕を掴み引き寄せ、鳩尾に拳を打ち付けた。

「があッ.....!ゴホッ...な、何をする貴様!!」

「お前、本当に魔族か?」

苦しみへたり込む彼の腕を掴んだまま持ち上げる。

「ねぇ、あなたの目的は何?」

メイはしゃがみ、彼の顎を持ち上げて目的を聞いた。
しかし、歪んだ顔の彼は答える事はしない。

「ボクに...触るなあああああぁあああ!!!」

突如溢れる膨大な魔力。
不意打ちをくらった三人は吹き飛ばされるが、空中で建て直した。

「ボクはッ!!!魔族の中でも崇高な『ガープ』族の王子だ!!!」

先程とは違って、髪は魔力の波によって浮き上がり、首から顔にかけて赤紫の紋章が出現している。

「貴様ら穢れた人間が!!!気安く触って良い身体ではないッッッ!!!!」

ドンッッッッッッ

もう一度、魔力の大きな爆発が起きた。
それは膨大な熱波となって地上に降り注ぐ。


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