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開闢の始まり

異変5

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『喰らえやァッッ!!』

突き出した片手。
その平から放たれる凝縮された紫の熱線。
ラプシヌプルクルの触手を2本分断し、湖面を焦がす。
ラッシュ時に引きちぎった1本を含めれば、合計3本破壊した事になる。

『どうだァッ!手足が引きちぎれる感覚はァ!?』

当然、ラプシヌプルクルにその言葉は届かない。

『フム、此処マデ追イ詰メラレタノハ久シブリダ。』

そのラプシヌプルクルの身体目掛けて、直径50センチ程の棘の付いた漆黒の鉄球が迫る。
それを見ずして触手で叩き落とそうとするが、鉄球はヒラリと触手を交わし、止まることは無い。

鉄球には鎖が伸びている。
その漆黒の鎖は触手を絡めとり、引きちぎった。
そしてそのまま鈍い音を立て、ラプシヌプルクルへと鉄球は激突。
初めて湖の中央から吹き飛ばされ、奇妙な声を上げてのたうち回る。

「ランちゃん!今よ!」

『わかってるっつーのッッ!』

けん玉状のフレイル付きハンマーを握り締めたメイに急かされ、トドメの一撃を放つ為に両手を構える。
その瞬間、ラプシヌプルクルの身体から無数の触手が爆発するかの様に伸び、刺突をメイ達に浴びせた。

「無駄よっ!!」

しかしその刺突は全て、メイの施した六角形の格子状の障壁に阻まれる。
テンニーンも、エドガーも、デミドランも、勿論メイも、その攻撃を喰らうことは無い。

『これで終わりだッッ!!!!』

紫色の火炎流が、ラプシヌプルクルを飲み込んだ。

『ピギェエエエエエエエエッッッッ!!!』

最初に聞いた鳴き声よりも、遥かに弱々しい鳴き声。
闇の焔に侵食され、この世から消えていく。



炎が消え、辺りを静寂が包む頃。
既に決着は付いていた。
ラプシヌプルクルは消滅し、湖面を覆っていたダマスカス鋼もすっかり消え失せ、澄んだ水色の湖が残っている。
最初の色は毒々しがったが、これから此処には自然が戻って来るであろう。

メイとデミドランは目を覚ましたエドガーとテンニーンを連れ、フェイリスの元へと急ぐ。
彼女は火口壁の頂上で、横になり眠っていた。
外耳道から垂れる血は凝固し、綺麗な銀髪が赤く染まっている。

「フェイリス、今治すからね。」

メイが手を翳すと、淡い黄緑色の魔力がフェイリスの身体を包む。
溢れ出た血は消え、内部で砕かれた耳小骨も鼓膜も元に戻る。

「よし、後は目を覚ますだけだよっ!」

朝が来るまでに村へ戻ろうと、山を下り始める一向。
フェイリスはデミドランが担ぐ事になった。
その中で、メイは1人反省している。

( 私がもっと力を出せれば、みんなが傷つく事は無かった。)

彼女の力は、想像次第では何でも出来る力だ。
しかし、想像出来なければ何にもならない。
それこそ無能力者と同じだ。

(今度は、誰も傷つけさせない。)

異世界から来たラプシヌプルクル。
その辺の魔物とは遥かに格が違った。
閃光系の魔法が効かないのもそうだし、『龍の咆哮』すら無効化して退けた。
恐らくこの世界には、メイやラプシヌプルクル以外にも他の『何か』が来ている筈だ。

( いったい何が起きようとしているの...?)

得体の知れない何かに掌の上で踊らされている気分だ。
不快な感情を首を振って打ち消し、前を見据える。
そろそろ、ハーユン村が見えてくる頃だ。

「...ん?」

前方に、何か丸い物が落ちている。
しかも大量に。

「ランちゃん、あれ、何だと思う?」

「こんな時に限ってゴーレムかよ。」

「だよねぇ...!」

メイが構えると同時に、数十の緑色のゴーレムが立ち上がった。
身長は恐らく3メートルはある。
それが全員、こちらを見ている。

「メイ、お前しか戦えないぞ?」

「わたしだって疲れてるよっ!?」

ゴーレム族は魔物の中でも防御力が極めて高い。
その辺の岩や砂のゴーレムであれば難なく倒せるが、今回はどうやら違う様だ。

「あれは『アダマンタイト』のゴーレムみたいですねぇ。」

テンニーンが目を細めて分析する。
どうやら希少金属のゴーレムらしい。
並大抵の攻撃では倒すどころか、ダメージすら与えられないだろう。
それに加えて、ゴーレムは気性が荒い。
普通のハンターや冒険者ならば複数体のアダマンタイトゴーレムを討伐する事は難しいだろう。
それこそ命を優先して逃げ出すレベルだ。

「つまり、それだけ価値があると。」

「うわぁ...ヤバい顔してるぞ、メイ。」

一斉に走り出したゴーレム達が、宝の山になるには時間はかからなかった。


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