ハルゲルツ

ささゆき細雪

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番外編 すれちがい、やりなおし

* 3 *

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「ケースケ、何やってんの。さっそく新入生の女の子に唾でもつけてたん?」


 両手一杯にクリームパンを持った級友が、焼きそばパンを買い損ねた浜名桂輔のかわいらしい悪戯を目撃して、本人を追及する。

 菜花に悪戯をした張本人は、楽しそうに笑い、「そうかもしれないなぁ」と頷く。


「なんだよそれ」
「お前はわからんでいい」
「あっそ。クリームパンわけてあげないよ」
「それは困る。昼飯買い損ねたから」
「下級生にちょっかい出してたからでしょ」
「ユイさん怒ってる?」
「自惚れるでない。呆れてんの」
「で、クリームパン幾らだっけ」


 ポケットから小銭を取り出して、桂輔は油井に手渡そうとする。


「あの子の背中が二つ分の値段」
「一個60円って言え」


 結局、桂輔は少し形の潰れたクリームパンを二つ食べる。
 でも、味なんかわからなかった。
 桂輔の頭の中では、焼きそばパンを譲ってあげた少女のことでいっぱいになっていたから。

 そんな桂輔を横目に、油井彰子も、黙々とクリームパンを食べる。食べる。


   * * *


 異変に気づいたのは、理沙の方だった。

「ナノハナ、背中になんかくっついてるよ」
「え? りさちゃんとってとって」

 菜花の背中から、理沙が120円と書かれた値札をはがす。

「購買でくっつけてきちゃったのかなぁ」

 うーん、と悩み始める菜花に、理沙は、

「誰かにつけられたんじゃないの?」

 と、真っ当な意見を述べる。

「えー。あたし120円?」
「誰も買わないって」
「……それ以前に売らないもん」

 むくれたまま、菜花は思いつく。

「もしかしてあの先輩かなぁ」
「どの先輩よ」

「焼きそばパン譲ってくれた先輩」

「あたし見てないからわかんないわよ」

 理沙は自分の物を買ったらそそくさと購買を後にしたのだ。菜花が焼きそばパンを買って教室に戻ってくるまでに何が起こったのかまったくわからないのである。

「そっかそうだよね、りさちゃん見てないからわからないよね」
「どんな先輩だった?」
「二年生で、背が高くて、手の甲に120円のシールくっつけてた先輩」
「は?」
「誰かに似てた気がする……けど」

 中学の頃も。あたしにちょっかい出してきた先輩がいたような気が、しないでもないんだけど。誰だっけ、名前が出てこない。

「忘れちゃった」
「……駄目じゃん」

 忘れっぽい菜花の、無頓着な様子を見て、まぁいいか、と理沙もそれ以上問いただすことは、なかった。
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