20 / 24
番外編 すれちがい、やりなおし
* 3 *
しおりを挟む
「ケースケ、何やってんの。さっそく新入生の女の子に唾でもつけてたん?」
両手一杯にクリームパンを持った級友が、焼きそばパンを買い損ねた浜名桂輔のかわいらしい悪戯を目撃して、本人を追及する。
菜花に悪戯をした張本人は、楽しそうに笑い、「そうかもしれないなぁ」と頷く。
「なんだよそれ」
「お前はわからんでいい」
「あっそ。クリームパンわけてあげないよ」
「それは困る。昼飯買い損ねたから」
「下級生にちょっかい出してたからでしょ」
「ユイさん怒ってる?」
「自惚れるでない。呆れてんの」
「で、クリームパン幾らだっけ」
ポケットから小銭を取り出して、桂輔は油井に手渡そうとする。
「あの子の背中が二つ分の値段」
「一個60円って言え」
結局、桂輔は少し形の潰れたクリームパンを二つ食べる。
でも、味なんかわからなかった。
桂輔の頭の中では、焼きそばパンを譲ってあげた少女のことでいっぱいになっていたから。
そんな桂輔を横目に、油井彰子も、黙々とクリームパンを食べる。食べる。
* * *
異変に気づいたのは、理沙の方だった。
「ナノハナ、背中になんかくっついてるよ」
「え? りさちゃんとってとって」
菜花の背中から、理沙が120円と書かれた値札をはがす。
「購買でくっつけてきちゃったのかなぁ」
うーん、と悩み始める菜花に、理沙は、
「誰かにつけられたんじゃないの?」
と、真っ当な意見を述べる。
「えー。あたし120円?」
「誰も買わないって」
「……それ以前に売らないもん」
むくれたまま、菜花は思いつく。
「もしかしてあの先輩かなぁ」
「どの先輩よ」
「焼きそばパン譲ってくれた先輩」
「あたし見てないからわかんないわよ」
理沙は自分の物を買ったらそそくさと購買を後にしたのだ。菜花が焼きそばパンを買って教室に戻ってくるまでに何が起こったのかまったくわからないのである。
「そっかそうだよね、りさちゃん見てないからわからないよね」
「どんな先輩だった?」
「二年生で、背が高くて、手の甲に120円のシールくっつけてた先輩」
「は?」
「誰かに似てた気がする……けど」
中学の頃も。あたしにちょっかい出してきた先輩がいたような気が、しないでもないんだけど。誰だっけ、名前が出てこない。
「忘れちゃった」
「……駄目じゃん」
忘れっぽい菜花の、無頓着な様子を見て、まぁいいか、と理沙もそれ以上問いただすことは、なかった。
両手一杯にクリームパンを持った級友が、焼きそばパンを買い損ねた浜名桂輔のかわいらしい悪戯を目撃して、本人を追及する。
菜花に悪戯をした張本人は、楽しそうに笑い、「そうかもしれないなぁ」と頷く。
「なんだよそれ」
「お前はわからんでいい」
「あっそ。クリームパンわけてあげないよ」
「それは困る。昼飯買い損ねたから」
「下級生にちょっかい出してたからでしょ」
「ユイさん怒ってる?」
「自惚れるでない。呆れてんの」
「で、クリームパン幾らだっけ」
ポケットから小銭を取り出して、桂輔は油井に手渡そうとする。
「あの子の背中が二つ分の値段」
「一個60円って言え」
結局、桂輔は少し形の潰れたクリームパンを二つ食べる。
でも、味なんかわからなかった。
桂輔の頭の中では、焼きそばパンを譲ってあげた少女のことでいっぱいになっていたから。
そんな桂輔を横目に、油井彰子も、黙々とクリームパンを食べる。食べる。
* * *
異変に気づいたのは、理沙の方だった。
「ナノハナ、背中になんかくっついてるよ」
「え? りさちゃんとってとって」
菜花の背中から、理沙が120円と書かれた値札をはがす。
「購買でくっつけてきちゃったのかなぁ」
うーん、と悩み始める菜花に、理沙は、
「誰かにつけられたんじゃないの?」
と、真っ当な意見を述べる。
「えー。あたし120円?」
「誰も買わないって」
「……それ以前に売らないもん」
むくれたまま、菜花は思いつく。
「もしかしてあの先輩かなぁ」
「どの先輩よ」
「焼きそばパン譲ってくれた先輩」
「あたし見てないからわかんないわよ」
理沙は自分の物を買ったらそそくさと購買を後にしたのだ。菜花が焼きそばパンを買って教室に戻ってくるまでに何が起こったのかまったくわからないのである。
「そっかそうだよね、りさちゃん見てないからわからないよね」
「どんな先輩だった?」
「二年生で、背が高くて、手の甲に120円のシールくっつけてた先輩」
「は?」
「誰かに似てた気がする……けど」
中学の頃も。あたしにちょっかい出してきた先輩がいたような気が、しないでもないんだけど。誰だっけ、名前が出てこない。
「忘れちゃった」
「……駄目じゃん」
忘れっぽい菜花の、無頓着な様子を見て、まぁいいか、と理沙もそれ以上問いただすことは、なかった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
俺のメインヒロインは妹であってはならない
増月ヒラナ
青春
4月になって、やっと同じ高校に通えると大喜びの葵と樹。
周囲の幼馴染たちを巻き込んで、遊んだり遊んだり遊んだり勉強したりしなかったりの学園ラブコメ
小説家になろう https://ncode.syosetu.com/n4645ep/
カクヨム https://kakuyomu.jp/works/1177354054885272299/episodes/1177354054885296354
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる