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11. だから君はハルゲルツ b
しおりを挟む今日から君はハルゲルツだ!
ハルツグなんて言いづらい。それに君はあたしに春を、告げる者、だから。
* * *
意味不明な留守録メッセージ。彰子らしいといえば彰子らしいと春継は苦笑する。何度も何度も耳元でリピートする。離れない。
あたしに春を、告げる者。
季節はもうすぐ冬だというのに、何を考えているんだ彰子は。
授業中だっただろうに、由海にかけた電話に彰子がでてくれた。整形外科と聞いただけでなぜ首にコルセットという連想をしたのかはわからないが、授業が終わったらすぐ行くと、だから鞭打ち症になんかなるなと言われた。彼女なりに心配しているのだろう。
午後三時。ノックの音。
もう来たのだろうか?
春継がどうぞと声をあげると、そこには。
* * *
「あぁもぉ最悪。どうしてあたしだけが補習なんですか先生~」
彰子は数学準備室でマンツーマンの補習を受けているとのこと。
「……ユイさんじゃなくてすいませんね」
春継の病室に現れたのは、桂輔だった。
「いや」
てっきり彰子だと思っていた春継、言葉に詰まり、桂輔を見上げる。
制服姿の桂輔は、パイプ椅子に腰を下ろし、春継の顔色を窺う。
「具合は?」
「両足骨折。首にコルセットじゃない」
「ユイさん心配してましたよ」
「知ってる」
ぶすっとした表情の春継を見て、桂輔は拗ねていた自分みたいだなぁと少しだけ、親近感を抱く。
だけど桂輔は意地悪く言葉を連ねる。
「じゃあ。俺が彼女を口説いたことも?」
「それは知らない……な、な、ん、だ、っ、て」
「即座に振られましたが」
淡白な反応の桂輔。だが春継はつっかかる。彰子が言っていた「疚しいことは一つしかしていない」という言葉が心の奥底に引っかかっていたから。
「……それでも疚しいことしただろ」
「キスしたら殴られました」
春継は思わず拳を握り締めていた。彰子にキスしただと? 俺だったらぶっ飛ばして殴り倒してやるぞと物騒なことを考えている春継を見て、寂しそうに笑う桂輔。
「ユイさんは、自分で人が苦痛だと思うことを言わないで隠してしまうところがあることくらい、知ってますよね? 部活で部長に襲われかけたことも、俺が彼女を奪おうとしたことも、あなたを心配させたくないがために、一人で抱え込んでいたんですよ」
……な、ん、だ、っ、て。
震える拳が力なく、ベッドの上に落ちる。今ここで、彼を殴っても意味はない。だから、春継は睨みつける。
「何が言いたいんだ」
「彼女のことを大切に想うなら、わかるでしょう?」
桂輔の、大人びた口調に圧倒される春継。まるで自分より彰子のことを知っているみたいな、その桂輔の態度に、春継は。
「負け犬の遠吠えか」
一蹴する。
桂輔が笑顔を消す。そして、本音を漏らす。
「そうですね……でも、これだけは忘れないでほしい」
真面目な表情で、桂輔が告げる。
彼女を幸せにしろと。
その裏に潜まれたメッセージなど知らない。もし彼女を幸せにしなかったら、桂輔が春継から彼女を奪い、大切にするのか。そんなこと、ありえない。彼女はモノではないのだから。奪ったり奪い返したりするモノではないのだから。彼女は、自分がそうでありたいと願うから傍にいてくれるのだ。春継の傍に。
春継は勝ち誇った笑みを浮かべる。
「何をわかりきったことを。決まってるだろ」
ーーハルゲルツ、それは春を告げる者。
留守録に彰子が残したメッセージ。それが彰子の愛情だと、桂輔は知っている。
だから。
「上等」
桂輔は認める。心底悔しそうに。
彼が、必要とされていることを。
彰子に春を。しあわせを。常に。もたらすのは、春継だからできるのだ、と。
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