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白鳥とアプリコット・ムーン 本編
ウィルバーと怪盗アプリコット・ムーンと昔の男
しおりを挟む花の離宮の神殿跡地にある美しい監獄につながれ、ウィルバーから甘い拷問を受けた翌朝。
扇情的なピンクのガウンを一枚だけ羽織った状態のローザベルは、物音で目覚め、寝台から降りた。じゃらり、という鎖の音が寝起きの彼女の内耳に響く。
目をしばたかせれば、檻の鍵をひらいてずかずかと入ってきたウィルバーの姿があった。そのままぬっと差し出されたのは、まるいトレイ。
「これは?」
「朝食だ」
「見ればわかるわ」
木製のトレイの上に並べられているのは見慣れた食器と、時間が経ってそうな固いパンとくず野菜のスープだ。もしかしたらウィルバーが独断で準備してきたのかもしれない。ふだん、料理などしない彼がどんな表情をしてこの朝食を用意したのかと考えると、ローザベルは複雑な気持ちになる。
寝台の隅に添えられているちいさな台に朝食が入ったトレイを乗せ、ウィルバーは困惑してその場に立ち尽くしているローザベルに言いつのる。
「昨日は食べないであのまま眠ってしまっただろ。まる一日なにも食べていない状態なんだ、体力を残してもらわないと事情聴取どころじゃない」
「昨日はそれどころじゃなかったくせに」
「――あ、あれでも加減はしてい……最後までしても別に構わなかったんだが……って何を言わせる……あぁ、やっぱりお前にピンクは似合うな。薔薇の花の妖精のように可憐だ」
「っ」
かつての夫とは思えない言動をとりながらも、ウィルバーはローザベルが素直に渡されたガウンを着ていたからか、嬉しそうに賞賛する。
「これ……ほかの女性のために準備していたものじゃないの?」
「何を莫迦なことを。俺がこのガウンを買ったのは昨日の朝だぞ。お前を捕まえて檻に閉じ込め、王城へ報告しに行った際に街で見かけてピンときたんだ……黒い服より、こっちの方が断然似合う」
「――そんな」
「ラーウスの花嫁衣装らしいな……こんなに破廉恥なガウンを一枚だけ花嫁に着せて、衆人環視のなか愛を誓うなど、酔狂なものだ。だが、怪盗だったお前にこのガウンを羽織らせて見せしめのように犯すのは楽しいだろうな……なんて、怯えるなよ。誰にも見せるわけないだろ。俺だけの愛玩奴隷にするんだから」
古民族の婚礼衣装を捕らえた怪盗に着せた理由は、ローザベルはウィルバーのモノだと自覚させるため。
ウィルバーの思いがけない独占欲にあてられて、ローザベルは愕然とする。
「なぁ……風呂もトイレもないこの檻にずっといるのは窮屈だろ? 陛下は美しい監獄に女怪盗をつなげと命じたが、同時に俺に花の離宮内では好きにしろとおっしゃっている。俺はこの花の離宮に暮らしている。薄暗い檻のなかより、俺は……陽のひかりがあたる寝室に監禁したい」
そこで、昨日のつづきをするのだと、暗に示唆されて、ローザベルは顔を真っ赤にする。
「うそ」
「嘘なんか言わねぇよ。こっちもいちいち地下に降りる必要がなくなるから時間の短縮になる。お前だって檻のなかでずっと壺に用を足したり、汗をかきっぱなしのままでいるのは辛いだろう?」
「でも……」
「でもじゃない。朝食を食べたら、移動だ。寝台はひとつしかないが、おおきいから問題ないよ」
そう言って、ウィルバーはニヤリと笑ってローザベルを膝の上へ座らせる。そのまま朝食の入ったトレイを取り寄せ、スープに固パンを浸したかと思えば、「あーん」とウィルバー自らがローザベルに食べさせようと固パンを口の前へ持ってきた。
「ひ、ひとりで食べられますっ」
「口移しの方が良かったか」
「なっ……んぁんっく!」
抵抗することなど許さないと腕に捕らえられた状態で、固パンを口移しで食べさせにきたウィルバー。じゅわっと染み込んだスープが、いままで空腹だったことを思い出させ、ローザベルは渋々彼からの口移しを受け入れ、朝食を摂取していく。
親鳥から餌を与えられるかのような食事を終えて、ふぅと息をつくローザベルを、空色の瞳がいつまでも見つめている。
――どうして、そんな目でわたしを見るの?
もっと残酷な方法で自白を促されるものだと思っていた。夫だった彼から自分の記憶を奪ったのだから。
王家を蔑んだ憎い怪盗アプリコット・ムーンとして捕まったら、処刑されて終わりだと理解していた。だからローザベルは彼の手にかかることを覚悟して、彼を救うための“やりなおしの魔法”をつかった。
それなのに、彼は怪盗アプリコット・ムーンを自分だけの愛玩奴隷にするのだと王に願い出ている。“不確定な未来”はローザベルの存在が消えたことで回避されたはずなのに、なぜだか不安になってしまう。
おまけに檻から出して寝室に監禁って?
――怪盗アプリコット・ムーンを捕まえたら、一緒に寝室で寝てあげる。
もしかして、ローザベルが言い残した言葉を、彼は忘れていなかった……?
「何を考えているんだ」
「ぁん」
「檻の外に出られるからって調子に乗るようなら、お仕置きだからな」
「ん……」
食べ終えた朝食のトレイを床の上に置いたウィルバーはローザベルの身体をそのまま抱き寄せ、口づけをはじめる。ピンクの透け透けのガウンから、乳首が勃ちあがっているのが丸見えで、まるで自分から誘っているみたいな気分になったローザベルは、くたりとウィルバーに身体を預けて吐息をこぼす。
「今朝はずいぶん素直だな。このままここで可愛がってやりたいところだが、つづきは城に戻ってからだ」
ローザベルの唇や鼻の頭に繰り返しキスをしていたウィルバーは、そう言って、彼女の長い黒髪にもキスをした。
* * *
噎せ返りそうな甘い薔薇の香りが漂う真っ白な浴室内で、ローザベルはウィルバーに身体を洗われることになった。
まる一日お風呂に入っていなかったうえに、拷問の際に失禁をしてしまったローザベルは寝室につれてこられてすぐさま「風呂に入れ」と命じられてガウンを脱いだ。抵抗する気力がないと判断されたからか、魔法封じの手枷も外されている。
てっきりひとりで身体を流してくるものだと思っていたのだが、あろうことかウィルバーまでも憲兵服を脱いだすっぽんぽんの姿で浴室に入ってくる。驚くローザベルを見て、ウィルバーはイタズラが露見した子どものようにほくそ笑み、彼女の身体を抱き上げた。
「ウィルバー……!?」
「ふふ。嬉しいね、俺の名前を呼んでくれるなんて」
「そ、そうじゃなくて……なんでハダカ」
「君を洗うためさ」
さっきまでずっと「お前」だったのに、監獄を出てからは「君」と呼ばれている。かつての夫に戻ったかのような錯覚に陥り、ローザベルは混乱する。
――で、でもウィルバーさまと一緒にお風呂なんて一度も入ったことなかったのに……
邸で暮らしていたときは住み込みのメイドがいて、彼女が入浴の手伝いをしてくれていた。ウィルバーも仕事で忙しく家の風呂を使うことなどほとんどなく、憲兵団の詰所にある水浴び場で身体を清めることが常だった。
花の離宮に移ってからも彼が風呂を使う姿など見たことがなかった。ローザベルも片手で数える程しかここの風呂を使っていない。そういえばふたりのためにと王が使用人を通わせてくれていたが、彼らはいまもウィルバーに仕えているのだろうか。
「ひゃっ、なに……?」
思案にふけるローザベルの意識を戻したのは、ウィルバーの指先だった。
ローザベルを自分の膝の上に座らせていたウィルバーは、薔薇の香りのする石鹸をたっぷり泡立てながら、彼女の髪や首筋にキスの雨を降らせていた……そこまではこそばゆい気持ちになりながらも素直に受け入れていたのだ。
だが、石鹸の準備を終えたいまのウィルバーは、両手をクロスさせて彼女の乳房を掴み、ふにふにと揉みしだいている。石鹸のぬめりのせいか、ふだんよりも艶かしい接触に、ローザベルの肌がゾクりと粟立つ。
「これからすみずみまで洗ってやる……昔の男の痕跡を消し去ったら、寝室で拷問のつづきをするから……」
「む、昔の男って」
「その胸の痕が何よりの証拠だ」
「違う……っあん!」
――ウィルバーさま、記憶を失う前に自分がつけたキスマークに嫉妬してる……
思わずそう言いたくなったが、ローザベルの否定に激昂したウィルバーは聞く耳持たないで乳首をつねる。にゅる、と泡立つ指先につねられて、痛みよりもむずむずした感覚に苛まれ、ローザベルは媚鳴をあげてしまう。
「まぁいい。君をたっぷり苛めながら、すべて訊き出すから……覚悟しろよ」
「んぁ……あぁんっ、おっぱいばっかり……ダメですっ――……!」
お風呂でも執拗に胸ばかり責められて、ローザベルは顔を真っ赤にしてウィルバーに抱えられた状態で絶頂を迎える。
けれどそこで終わりではない。彼の石鹸をまとった指先は無防備なローザベルの下腿にも迫っていた。
指でつぅっとなぞっただけで太ももをひくつかせるローザベルを面白そうに見つめて、ウィルバーは呟く。
「おっぱいばっかりなわけないだろ? こっちもたっぷり洗ってやるからな……おや、このぬるぬるしているのは石鹸じゃなさそうだ」
「いやっ、言わないで……ぁっー……!」
いやいやと頭をふる彼女を宥めるように、彼の指先がローザベルの蜜壺に滑り込む。指先でナカをぐじゅぐじゅとかき混ぜられて、ローザベルは甲高い声で啼く。
「どこをさわってもいい声で啼くね……敏感で、可愛い身体だ……」
「っ……いやぁん、あぁ、もぉ……」
「何度でもイかせてあげる。昔の男のことなど忘れてしまえばいい」
「はぁぁんぅ……!」
蜜壁を抉る指先に翻弄され、ローザベルの身体がひくりと震え、お尻がウィルバーのいきり立った陰茎にふれる。熱い彼の分身の存在を意識してしまったローザベルは下腹部を疼かせて最奥から蜜を垂らしつづけてしまう。
妻の記憶を失った夫に身体中を洗われ、清められ、苛められ。
風呂の熱気も相まって、上気する顔でウィルバーを見上げれば、彼の空色の瞳も欲情を湛えていて……
吸い寄せられるように、口づけをしていた。
結婚した頃よりも過激で執拗なウィルバーの愛撫を受けた身体はとろとろに蕩けている。彼の筋肉質な胸へと身体を凭れかけたまま、ローザベルは必死になって舌を絡める。
ウィルバーのおおきな手に濡れた頭を支えられて、言葉を交わすことなくただひたすら唇を、舌を、ふれあわせる。
どちらが求めたのかわからないまま、くらくらするほどの甘ったるい薔薇の香りに酔いながら、長い時間――あたまのなかが真っ白になるキスをしていたから。
そのまま、ローザベルはのぼせて意識を失ってしまった。
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