飾り物の瞳に光

ささゆき細雪

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「野良猫がいけないのよ。あたしがバイクで颯爽と爆走してた最中に、あやつが『にゃあ』ってトボケタ鳴き声出しながら突っ切ってきて道路のど真ん中に座り込んじゃったんだから。そのまま轢いちゃったら気持ち悪いじゃない。第一、猫殺しちゃうのよ。これじゃ猫殺しよ」

 高校二年の初夏。
 顔面を白い包帯でコーティングされた少女は、白くて硬いベッドの上で、機関銃のように言いたいことをずばずばと口にしていた。

「それはカンベンって思って、車体を横に反らせただけなのに。運悪くガードレールにごっつん、よ。免許とったばっかだったのに、もう最悪」

 巻かれた包帯の合間からのぞくアンバーの瞳は虚ろなまま、数度、瞬きを繰り返す。
 面会謝絶の札が外れて一週間。脳挫傷、左手と左足首骨折、その他顔面などの擦過傷。それが彼女に下された診断だ。
 彼女はもう平気だよ退院したって別に困らないわよと言い張るが、医者が駄目だと言うので仕方なく病室でおとなしくしている。

「ちょっと泰介たいすけ聞いてる?」
「聞いてるよ。それで?」

 僕は、早口でまくし立てる暁乃の前で、静かに問う。彼女はさっきから同じことばかり説明している。バイクで走ってたら道のど真ん中に野良猫が這って出てきて座り込んじゃったから仕方なくガードレールに突っ込んじゃったという話を。

「その猫ね、あたしが引っ繰り返った途端に、びくぅって身体竦ませてね、あたしがガードレールと心中未遂した横をすたこらさっさ、って逃げるようにいなくなっちゃったの。こんなんなら轢き殺してあげたほうがよかったかもね」
「そんな過激なこと言うなよ。暁乃のおかげで猫は命拾いできたんだから」
「でも、これで全治三週間の大怪我したあたしって馬鹿みたいじゃない?」
「それはお前が後先考えないからだろ」
「まぁそうなんだけどさ。それに骨折したの左だし、右手は問題なく使えるからすぐ復帰できるって。うん」
「それだけ喋れれば元気だな」

 僕が呆れて溜め息をつくと、暁乃はぺろりと舌を出した。
 白い病室の中で、彼女の出した舌だけが、鮮やかなほどに、赤かった。
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