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参
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「もともと三浦義村と北条義時は仲がよくないですから。鞍替えのもうひとつの理由ですよ。義村の娘が実朝に嫁したら、執権の地位が脅かされる。権力に固執する彼からすればどちらに彼女が嫁いでも嬉しくないわけです。だからといって彼女を殺したら三浦氏と戦を起こすことになりかねませんし、源氏からも相手にされなくなるでしょうから賢明ではありません。となれば結論は自ずと導かれるわけです……水、きみは神託の本質を知ってますよね――あれは、人間が勝手に捻じ曲げていいものではない」
なおも実朝は厳しく告げる。
「鎌倉が滅ぶ、というのは詭弁ですね?」
実朝の言葉に押されるように、泉次郎は白い顔で言葉を紡ぐ。
「たしかに、母上は、鎌倉を滅ぼすと大衆で告げました……ですが、ほんとうは」
「滅ぶのは源氏だけ」
実朝は諦めたように疲れた笑みを見せる。
「母上は、鎌倉を護るため、源氏の系譜に連なる男を見捨てたのですね」
そして見捨てさせたのは、水、きみの言葉がそうさせたのでしょうと、静かに彼は憤る。
泉次郎は唇を噛みしめ、平伏する。
「その点は、申し訳なく思います。ですが、鎌倉を壊したくないとおっしゃったのは実朝さまも!」
「ああ。壊すわけにはいかない」
唯子と公暁は立場を逆転することで神託を逃れようとした。けれど、神託は間もなく現実になろうとしている。
北条が公暁を唆し、実朝を殺した暁には、公暁も討ち取られ、京都にいる禅暁も公暁の共犯だと決めつけられた上に暗殺されることだろう。
――そうすれば、将軍家に後継の男は滅ぶ。
すべて、八幡神が下した通りに。
「ぼくは逃げたくない……けれど、水。ぼくはこのまま彼女を悲しませることだけは、したくない」
だから最期に、頼まれてくれと、実朝は泉次郎に素顔を見せる。
「血の繋がった姪を愛した時点で、ぼくは破滅している。父が敬った八幡神に欺き、背くことは罪だとわかっている。それでも彼女がぼくを選ぶのなら……」
「言わずとも、承知しております」
言葉の先に連なる想いに戦慄しながら、泉次郎は実朝の決意を心に刻む。
その頭上を、ひとひらの雪が舞い落ちていく。雪に気づいた実朝は、泉次郎の頭上にも自分の衣被きをかけ、牡丹の花咲く素顔をのぞかせ、淡く微笑んだ。
なおも実朝は厳しく告げる。
「鎌倉が滅ぶ、というのは詭弁ですね?」
実朝の言葉に押されるように、泉次郎は白い顔で言葉を紡ぐ。
「たしかに、母上は、鎌倉を滅ぼすと大衆で告げました……ですが、ほんとうは」
「滅ぶのは源氏だけ」
実朝は諦めたように疲れた笑みを見せる。
「母上は、鎌倉を護るため、源氏の系譜に連なる男を見捨てたのですね」
そして見捨てさせたのは、水、きみの言葉がそうさせたのでしょうと、静かに彼は憤る。
泉次郎は唇を噛みしめ、平伏する。
「その点は、申し訳なく思います。ですが、鎌倉を壊したくないとおっしゃったのは実朝さまも!」
「ああ。壊すわけにはいかない」
唯子と公暁は立場を逆転することで神託を逃れようとした。けれど、神託は間もなく現実になろうとしている。
北条が公暁を唆し、実朝を殺した暁には、公暁も討ち取られ、京都にいる禅暁も公暁の共犯だと決めつけられた上に暗殺されることだろう。
――そうすれば、将軍家に後継の男は滅ぶ。
すべて、八幡神が下した通りに。
「ぼくは逃げたくない……けれど、水。ぼくはこのまま彼女を悲しませることだけは、したくない」
だから最期に、頼まれてくれと、実朝は泉次郎に素顔を見せる。
「血の繋がった姪を愛した時点で、ぼくは破滅している。父が敬った八幡神に欺き、背くことは罪だとわかっている。それでも彼女がぼくを選ぶのなら……」
「言わずとも、承知しております」
言葉の先に連なる想いに戦慄しながら、泉次郎は実朝の決意を心に刻む。
その頭上を、ひとひらの雪が舞い落ちていく。雪に気づいた実朝は、泉次郎の頭上にも自分の衣被きをかけ、牡丹の花咲く素顔をのぞかせ、淡く微笑んだ。
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