春暁に紅緋の華散る ~はるあかつきにくれなひのはなちる~

ささゆき細雪

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 公暁に射殺されそうな視線を向けられても、紅緋べにひの牡丹を顔に宿した実朝は気にすることなく言葉をつづける。

「彼女を危険な目にあわせたくないのなら、そうするのも方法のひとつだと言いたいだけですよ……唯子姫」
「あ、はい」
「公暁くんが大切だから、あなたは彼を拒んでいるんですよね」

 その言葉に、公暁が唖然としている。唯子はすまなそうに公暁の方を向き、こくりと首を振る。

「それとも、他に誰か想う方でもいるのでしょうか?」

 にこやかに問いかけられ、唯子もまた、言葉を失う。疑うように、公暁もまた、唯子に視線を向けている。
 残酷な質問を前に、唯子は黙り込む。叶わぬ恋だと、心の裡に仕舞いこんでいるこの気持ちを、公暁は知らない。もしかしたら、実朝は気づいているのかもしれない。
 気づいていて、唯子の気持ちを暴こうとしている。

「わたし……」
「みなまで言わなくてもわかっていますよ。ぼくはあなたが望む限り、傍にいますから」

 すがるように実朝へ手を差し出せば、彼は当然のように唯子の手を摑み、指先へくちづける。


「うそだろ――唯子」


 唯子が恥ずかしそうに顔を赤らめ、実朝を見つめる視線が、すべてを物語っている。
 公暁は見ていられず、ふたりの世界から逃げ出していく。それを見送って、唯子は申し訳なさそうに実朝を見上げる。顔に牡丹の花を咲かせた、鎌倉三代将軍は、満足そうに彼女を抱き寄せる。
 紅緋の花に吸い寄せられるように、唯子は身体を擡げ、彼の顔を見上げて、懇願にも似た言葉を耳にする。


「突然で申し訳ありません。一緒に、京都へ来てくれませんか?」


 素直に命じればいいのに、彼は唯子が受け止めてくれるのを待っている。けして自分の気持ちを押し付けない……公暁と違って。
 そのことに気づいて唯子は苦笑する。それを否定と捉えたのか、実朝は淋しそうに瞳を伏せる。慌てて彼の手を握り、唯子はぶんぶんと首を振る。



「……すこし、考えさせて、ください」
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