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弐
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しおりを挟む「お祖母さまも気づいている。おれが唯子を求めていることに」
「でも……」
祖母の政子は知っていて公暁を鎌倉へ呼び戻したというのか? 鶴岡八幡宮の別当にするためだとばかり思っていた唯子は、戸惑いの色を隠せない。
政子は唯子と公暁の秘密を知っているのだ。たしかにふたりが結婚すれば、これ以上の混乱はなくなるだろう。だが、それが鶴岡八幡宮の神託を実現させる可能性を考えると、危険であることに違いはない。
それに政子が良くても、多くの北条氏は公暁の還俗と婚姻を認めたくないはずだ。実朝を飾雛とし、自分たちが優位に政治を行えるいま、不本意な争いの火種は産み落とすべきではない。唯子を育てた父、義村もきっと反対するだろう。だというのに、彼は唯子との結婚を望んでいる。自分に降りかかる危険を顧みずに。
「なぁ、唯子……お前が神託を気に病んでいるのはわかる。けれど、いつまでもこのままなのは辛くないか? 俺はお前に花嫁装束を着せてやりたい、お前の笑顔を見たい、ずっと傍にいたい」
「――義唯」
震える声で告げられて、思わず唯子は彼のほんとうの名を唇に乗せていた。
「僧侶なんかに、なりたくない……」
「だめよ」
「駄目じゃない」
そう言って、噛みつくように唇を奪われる。誰とも触れることのなかった深紅色のそこは、彼の唾液でぬらりと煌めいている。
「駄目じゃない。おれはお前を妻にする。誰にも文句なんか言わせるものか。おれはお前を幸せにする。たとえ自分が北条に目をつけられても……」
狂ったように唯子を抱き寄せ、公暁は彼女の顔から首へ、唇を落としていく。首を振って拒む唯子に、これでもかと優しい言葉を捧げ、彼女を慈しむ公暁は、駄目じゃないと言い募り、きつくきつく、唯子を抱く。
「……暁。愛してる」
抗うことさえできず、唯子はぶつけられる気持ちを身体へ刻んでいく。五年分の想いのおおきさは、計り知れない。このまま首を縦に振れば、きっと公暁は喜んでくれる。けれどそんなことをしたら、自分が彼を駄目にしてしまう。だから唯子はけして是とは言わない。首を振って、早くやめてと訴えるだけ。
「どうして」
悲痛な公暁の声が遠い。なぜだろう。彼のことは嫌いじゃない。けれど結婚することが考えられない。自分は一生独り身だと思っているからなのだろうか。それとも……
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