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chapter,5 (4)

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「またお会いしましたね」

 応接室にずかずか入って、ソファにどっしり腰掛けた人物を見て、平井は苦笑する。

「あまり会いたくないですけどね。鈴代賢季さん。それでは、事情聴取を始めさせていただきますよ」
「まぁそう焦らずに」

 賢季はにやにや笑いながら平井を見つめる。平井は賢季が何を考えているのか見極めようと、彼の言葉の続きを求める。

「警察は、今日の出来事をどう考えているんでしょう?」
「守秘義務がありますから言えませんよ」
「単純に、殺人事件だと思いますか?」
「それはどういうことです?」
「人間ではない何かによる非現実的な現象、とは捉えられませんかね」
「ばからしい」

 即座に応えた平井を見て、賢季は嘲るような表情を見せる。

「ですが、鈴代一族には呪われた人殺しの魔女という言い伝えが存在しているんですよ」
「……人殺しの魔女、だと」
「そうです。他の方々は何も言いませんでしたか? 人殺しの魔女、という単語を口にするだけで案外、隠していることを吐く人間も多いと思いますよ」

 平井に助言するように、賢季は口ずさむ。

「それが、殺人事件と関連があると」
「そう考えている人間が殆どだと思いますよ。ある意味非現実的な現象ですから、警察の方にとってみれば面倒な事態でしょうけど」

 どこか楽しむように、賢季は平井の顔を見据える。お前たちにこの深い謎が解けるのかと挑むように。

「呪い……か」

 黙り込み、何かを考えるように平井が首を振る。そして、賢季を見返す。

「……何か?」
「人殺しの魔女について教えて欲しい。この事件は……複雑すぎる」

 平井の苦虫を噛みつぶしたような発言に、賢季は頷く。確かに、この事件は複雑だ。自分たちに関係ない人間にとってみれば。

「いいですけど、一つ条件が」

 賢季は勝ち誇ったように、平井に提案する。平井は渋々、彼のやりたいことを認める。
 そして賢季は口にする。

「人殺しの魔女は、泉観ですよ」

 更に複雑にさせる、誤解を招くような言葉を。


   * * *


「鈴代泉観が怪しいです」

 応接室に入ってくるや否や、声高々に平井に向けて言い放ったのは東金豊。真新しいメイド服が眩しい。
 平井は次期財閥当主が怪しいと豪語する豊を一目見て、何かおかしいと感づく。
 ……まるで、次期財閥当主を糾弾しているようだ。何が彼女をそうさせるんだ?

「それはなぜ」
「刑事さんはご存知ないと思いますが、彼女の前で事件は起こっているからです。一週間前の現当主殺人未遂も、半年前の殺人も、みんなみんな」
「ちょっと待て」

 声を荒げる豊に割って入り、平井は確認を取る。
 夕起久が倒れた朝、目の前にいたのは確かに泉観だ。だが、半年前の殺人という聞きなれない言葉が平井を突き動かす。

「半年前にもあったのか?」
「……警察は事故だと片付けてましたが。あたしは殺人事件だと思ってます。今も」
「それが、今あなたがここにいる理由ですか?」

 つい三日前に賢季に紹介されて鈴代邸で働くことになった豊。その三日後に起こった殺人事件。彼女は鈴代泉観が怪しいと決め付けている。つまり、彼女は人殺しの魔女が本当に鈴代泉観であることを調べるためにこの屋敷に入ったのだろう、と平井は考える。そこに関連しているのが泉観の従兄である賢季である……それにしても、あの男は一体何を考えているんだ?
 そして平井は豊から半年前の事件を耳にする。彼女の妹が、鈴代泉観の目の前で死んだという、思いがけない過去を。
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