29 / 57
chapter,5 (4)
しおりを挟む「またお会いしましたね」
応接室にずかずか入って、ソファにどっしり腰掛けた人物を見て、平井は苦笑する。
「あまり会いたくないですけどね。鈴代賢季さん。それでは、事情聴取を始めさせていただきますよ」
「まぁそう焦らずに」
賢季はにやにや笑いながら平井を見つめる。平井は賢季が何を考えているのか見極めようと、彼の言葉の続きを求める。
「警察は、今日の出来事をどう考えているんでしょう?」
「守秘義務がありますから言えませんよ」
「単純に、殺人事件だと思いますか?」
「それはどういうことです?」
「人間ではない何かによる非現実的な現象、とは捉えられませんかね」
「ばからしい」
即座に応えた平井を見て、賢季は嘲るような表情を見せる。
「ですが、鈴代一族には呪われた人殺しの魔女という言い伝えが存在しているんですよ」
「……人殺しの魔女、だと」
「そうです。他の方々は何も言いませんでしたか? 人殺しの魔女、という単語を口にするだけで案外、隠していることを吐く人間も多いと思いますよ」
平井に助言するように、賢季は口ずさむ。
「それが、殺人事件と関連があると」
「そう考えている人間が殆どだと思いますよ。ある意味非現実的な現象ですから、警察の方にとってみれば面倒な事態でしょうけど」
どこか楽しむように、賢季は平井の顔を見据える。お前たちにこの深い謎が解けるのかと挑むように。
「呪い……か」
黙り込み、何かを考えるように平井が首を振る。そして、賢季を見返す。
「……何か?」
「人殺しの魔女について教えて欲しい。この事件は……複雑すぎる」
平井の苦虫を噛みつぶしたような発言に、賢季は頷く。確かに、この事件は複雑だ。自分たちに関係ない人間にとってみれば。
「いいですけど、一つ条件が」
賢季は勝ち誇ったように、平井に提案する。平井は渋々、彼のやりたいことを認める。
そして賢季は口にする。
「人殺しの魔女は、泉観ですよ」
更に複雑にさせる、誤解を招くような言葉を。
* * *
「鈴代泉観が怪しいです」
応接室に入ってくるや否や、声高々に平井に向けて言い放ったのは東金豊。真新しいメイド服が眩しい。
平井は次期財閥当主が怪しいと豪語する豊を一目見て、何かおかしいと感づく。
……まるで、次期財閥当主を糾弾しているようだ。何が彼女をそうさせるんだ?
「それはなぜ」
「刑事さんはご存知ないと思いますが、彼女の前で事件は起こっているからです。一週間前の現当主殺人未遂も、半年前の殺人も、みんなみんな」
「ちょっと待て」
声を荒げる豊に割って入り、平井は確認を取る。
夕起久が倒れた朝、目の前にいたのは確かに泉観だ。だが、半年前の殺人という聞きなれない言葉が平井を突き動かす。
「半年前にもあったのか?」
「……警察は事故だと片付けてましたが。あたしは殺人事件だと思ってます。今も」
「それが、今あなたがここにいる理由ですか?」
つい三日前に賢季に紹介されて鈴代邸で働くことになった豊。その三日後に起こった殺人事件。彼女は鈴代泉観が怪しいと決め付けている。つまり、彼女は人殺しの魔女が本当に鈴代泉観であることを調べるためにこの屋敷に入ったのだろう、と平井は考える。そこに関連しているのが泉観の従兄である賢季である……それにしても、あの男は一体何を考えているんだ?
そして平井は豊から半年前の事件を耳にする。彼女の妹が、鈴代泉観の目の前で死んだという、思いがけない過去を。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
RoomNunmber「000」
誠奈
ミステリー
ある日突然届いた一通のメール。
そこには、報酬を与える代わりに、ある人物を誘拐するよう書かれていて……
丁度金に困っていた翔真は、訝しみつつも依頼を受け入れ、幼馴染の智樹を誘い、実行に移す……が、そこである事件に巻き込まれてしまう。
二人は密室となった部屋から出ることは出来るのだろうか?
※この作品は、以前別サイトにて公開していた物を、作者名及び、登場人物の名称等加筆修正を加えた上で公開しております。
※BL要素かなり薄いですが、匂わせ程度にはありますのでご注意を。
ダブルネーム
しまおか
ミステリー
有名人となった藤子の弟が謎の死を遂げ、真相を探る内に事態が急変する!
四十五歳でうつ病により会社を退職した藤子は、五十歳で純文学の新人賞を獲得し白井真琴の筆名で芥山賞まで受賞し、人生が一気に変わる。容姿や珍しい経歴もあり、世間から注目を浴びテレビ出演した際、渡部亮と名乗る男の死についてコメント。それが後に別名義を使っていた弟の雄太と知らされ、騒動に巻き込まれる。さらに本人名義の土地建物を含めた多額の遺産は全て藤子にとの遺書も発見され、いくつもの謎を残して死んだ彼の過去を探り始めた。相続を巡り兄夫婦との確執が産まれる中、かつて雄太の同僚だったと名乗る同性愛者の女性が現れ、警察は事故と処理したが殺されたのではと言い出す。さらに刑事を紹介され裏で捜査すると告げられる。そうして真相を解明しようと動き出した藤子を待っていたのは、予想をはるかに超える事態だった。登場人物のそれぞれにおける人生や、藤子自身の過去を振り返りながら謎を解き明かす、どんでん返しありのミステリー&サスペンス&ヒューマンドラマ。
時の呪縛
葉羽
ミステリー
山間の孤立した村にある古びた時計塔。かつてこの村は繁栄していたが、失踪事件が連続して発生したことで、村人たちは恐れを抱き、時計塔は放置されたままとなった。17歳の天才高校生・神藤葉羽は、友人に誘われてこの村を訪れることになる。そこで彼は、幼馴染の望月彩由美と共に、村の秘密に迫ることになる。
葉羽と彩由美は、失踪事件に関する不気味な噂を耳にし、時計塔に隠された真実を解明しようとする。しかし、時計塔の内部には、過去の記憶を呼び起こす仕掛けが待ち受けていた。彼らは、時間が歪み、過去の失踪者たちの幻影に直面する中で、次第に自らの心の奥底に潜む恐怖と向き合わせることになる。
果たして、彼らは村の呪いを解き明かし、失踪事件の真相に辿り着けるのか?そして、彼らの友情と恋心は試される。緊迫感あふれる謎解きと心理的恐怖が交錯する本格推理小説。
残響鎮魂歌(レクイエム)
葉羽
ミステリー
天才高校生、神藤葉羽は幼馴染の望月彩由美と共に、古びた豪邸で起きた奇妙な心臓発作死の謎に挑む。被害者には外傷がなく、現場にはただ古いレコード盤が残されていた。葉羽が調査を進めるにつれ、豪邸の過去と「時間音響学」という謎めいた技術が浮かび上がる。不可解な現象と幻聴に悩まされる中、葉羽は過去の惨劇と現代の死が共鳴していることに気づく。音に潜む恐怖と、記憶の迷宮が彼を戦慄の真実へと導く。
斯かる不祥事について
つっちーfrom千葉
ミステリー
去年の春に新米の警察官として配属された、若き須賀日警官は、それからの毎日を監視室で都民を見張る業務に費やしていた。最初は国家に貢献する名誉な仕事だと受け止めていた彼も、次第に自分のしていることが一般庶民への背信ではないかとの疑いを持つようになる。
ある日、勤務時間内に、私服姿でホストクラブに出入りする数人の同僚の不正行為を発見するに至り、それを上司に報告するが、そのことが原因で、先輩や同僚から不審の目で見られるようになる。これにより、彼の組織への嫌悪感は決定的なものになる。警察という組織の腐敗というテーマよりも、むしろ、社会全体における犯罪と正義の境界と疑念をひとつの作品にまとめました。よろしくお願いいたします。
この作品は完全なフィクションです。登場する組織、個人名、店舗名は全て架空のものです。
2020年10月19日→2021年4月29日
ザイニンタチノマツロ
板倉恭司
ミステリー
前科者、覚醒剤中毒者、路上格闘家、謎の窓際サラリーマン……社会の底辺にて蠢く四人の人生が、ある連続殺人事件をきっかけに交錯し、変化していくノワール群像劇です。犯罪に関する描写が多々ありますが、犯罪行為を推奨しているわけではありません。また、時代設定は西暦二〇〇〇年代です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる