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chapter,4 (6)
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「どうしたんだいそんな大きな音を立てて扉を閉めるなんてなっていないなぁ」
「ちょっとどういうことよ!」
鈴代から逃げるように豊は賢季の部屋へ向かった。賢季は顔を真っ赤にしてぜいぜい息を切らせている豊を見ても、何食わぬ顔で憎まれ口を叩く。
「なんのことだい?」
「鈴代泉観のことに決まってるでしょ!」
賢季はそれでも首をかしげたまま。豊は彼を無視してソファに腰掛け、言葉を続ける。
「彼女は自分を人殺しの魔女だと認める発言をしているわ。もしかしたら殺しているかもしれないと」
「そのようだね」
「でも、マドカのことを問い詰めれば問い詰めるほど、彼女は不思議なことを言ってあたしを煙に巻くのよ、これじゃあ本当のことを知ることなんてできるわけないじゃない!」
真実を知りたくないか? そう、賢季は豊に提案したのだから。
真実を知る方法なんて調べてもいなかった。だから、該当者とはちあった瞬間、感情に任せて憎しみを振りまいていた自分。
これでもし、彼女が円を殺していないとわかったら。豊はその可能性に気づき、愕然とする。
……今までそのことにすら気づけなかった不思議。
まるで何者かによって操られていたかのよう。鈴代泉観こそ妹の円を殺した憎き人殺しの魔女だと。
そもそも。
……なんであたしは、葬式の時に彼女のことを人殺しの魔女、だなんて叫んだの?
黙りこんでしまった豊を見て、賢季が声をかける。
「簡単な暗示だな」
「え」
「人殺しの魔女という非現実的な呼び名を、ユタカは自分が自分で口にしたと思い込んでいるようだけど。実際のところ、そうであると誰かが認めているのか?」
賢季の怖いくらいに真面目な口調が、豊を驚かせる。
「本当のことを、覚えていないのは、泉観だけじゃないんだ。ユタカ、君が本当のことを取り戻さない限り……本当のことを思い出さない限り、君が知りたい真実は浮かび上がってこないよ」
……あたしの目の前にいるのは誰?
賢者の言葉に耳を傾けるように、豊は瞳を閉じて、繰り返す。
「本当の記憶を、取り戻す、思い出す」
賢季は、瞳を閉じたまま、考え込む豊の髪に、そっと口づける。
普段なら嫌がって賢季の顔を即座に撥ね退けるだろうに、豊はまだ、そのことにすら気づかず、思考を巡らせている。
* * *
死体のように動かなければいい。この冷たい身体を弄ぶ魔の手から逃れるためなら。
「……み、こ」
かき抱かれて、囁かれて。
本当に好きなのはお前だけだよと、お前が必要だよと、そう、言われても。
あの人は、本当の名前を呼ばない。呼ぶのは、彼女の、名前。
レースに縁取られたスカートの中へ手を伸ばされても、彼女は逃げ出せない。
反抗したら、生きていけない。殺されてしまうかもしれない。
人殺しの魔女が、逆に彼を殺してくれればいいのに。
これは、絶望に似た、渇望。
偽りの愛を与えられ続けても、許容量に達した心は、それ以上受け入れることができない。決壊したダムのような自分の心を。
自分から壊すのは、怖いから。
「何があろうが、わたしはお前を愛してやるぞ……こ」
与えられる愛に、溺れないように、権力者の気まぐれに付き合いつづける。
もういらないと、棄てられないよう。
――血のように赤い夕陽を背に、絶叫が聞こえる。
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