姉と薔薇の日々

ささゆき細雪

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普通の女子高生の定義

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   * * *

 諫早が挿し木した薔薇の樹に根が生えたのを見て、あたしは思わず言っていた。

「その苗、お墓に植えていい?」

 彼は、無言であたしにキスをする。
 いよいよ明日だ。

「明日はカエデと薔薇の花束買いに行って、そのまま横浜に行くんだ。だから、お墓に行くのは今日がいいな」
「え、今から?」

 日曜日の夕方六時半。
 残暑の厳しい九月初旬。
 それでも陽は陰ってゆく。

「しょうがないな……」

 彼は大慌てで駐車場の車を出す。

「セリカも姉みたいに気まぐれになってきたな」
「そんなことないよ。これがきっと、あたしなんだよ」

 諫早のアパートから彼女の墓所まで一時間半程度だ。明日の最初の授業に出席できるかは判断できないが、今日苗を植えなくてはいけない気がする。
 所々に街灯がつきはじめる。
 これから墓所に行くというのに、怖くないのが不思議だ。
 むしろ、わくわくしている。
 彼女が待っていてくれるみたいで。


   * * *


 東海道線で横浜へ。
 昨日のことを思い出しながら、あたしと楓は薔薇の匂いの中で会話をする。

「昨日、夜になってからお墓に行ってさ、諫早と薔薇の苗植えたんだ」
「あの、血のように赤い?」
「違うよ。それはあたしの家の花壇。お墓に植えたのは、彼女みたいに美しい花を咲かせる耽美的な花」
「ふーん」

 楓は興味なさそうに相槌をうつ。

「それより、本当に日記、開くんでしょ?」
「当然」

 日記帳の鍵は相変わらず花瓶の底で眠っている。同じく、眠っている日記帳はあたしの机の上だ。
 ガタゴトガタゴト。電車は一定速度で順調に走っている……


   * * *


 車で墓所に到着したのは八時になる直前だった。
 すっかり暗くなった雑木林をくぐり抜け、あたしと諫早は暗闇の中、懐中電灯だけで薔薇の苗を植えてしまった。
 闇の中でも彼女の白い墓石は目立つ。墓所の隅にいるくせに、一番目立っているのだ。

「あったあった。早速植えよう」
「こういうシチュエーション、って普通逆に死体を掘り出すよね」
「嫌なこと言うね、諫早」
「じゃあ、漢字の部首の『車偏』に『楽』って書いて、なんて読むかわかる?」
「そりゃ轢かれる……ってイキナリ何言いだすのよ」
「怖くないんでしょ、セリカ」

 ヴ……
 思わず諫早の背中にしがみついて囁く。

「ねぇ、一緒に水汲みに行こうよ。一人じゃ危険すぎるよ……」

 怖くはないのだが、懐中電灯が一つしかないのだから、真っ暗闇の中、一人で無闇に行動するのはどう考えても尋常ではない。それに、辛うじて一人で水汲みに成功したとしよう、戻ってくるときに、相棒の姿が見えなくなっていたら、当然不安だろう、うん。
 そう諫早に言うと、彼は懐中電灯をあたしに渡した。

「これなら大丈夫だな」

 ……違う!


   * * *


「次だね」
「うん」

 電車は一つ前の戸塚に到着した。
 薔薇の花束を抱えた女子高生の姿にギョッとしてる乗客を見ては二人で笑う。

「やっぱり、この恰好って変かねぇ?」
「おかしくないって。制服に薔薇の花束ってアンバランスさがポイントなんじゃない」

 楓もいい加減なことを言う。
 あたしもたいして気にはしない。
 自分が大胆になってきている。
 誰の所為だろう?
 茉莉花の所為にしておこう。

「ねぇ、セリカのお姉さんも、大胆な人だったんでしょ?」
「あたしと比べないでよ。こう見えてもあたしは普通の女子高生よ」

 ……普通の女子高生、って誰が標準になっているのだろうか?
 ①渋谷・原宿でウロウロしてるような子たちのこと?
 ②厳粛な家庭に育ったお嬢様のこと?
 ③彼女みたいな神々しい人のこと?
 ……そう考えるときりがない。

「どうした、そろそろ降りる準備しなきゃ」
「そうだね」

 ちゃっちゃと降りる準備を進める楓。こういうとき、一人だと何も出来ない自分が惨めに感じられる。

「花束大丈夫? 落とさないでよ」
「平気平気」

 電車がホームに滑り込んで、あたしと彼女は薔薇の香りと共に下車をする。
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