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ぜんぶ彼女の所為
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諫早と茉莉花が中学校時代の同級生という話は聞いたが、瀬尾数臣と茉莉花が隣同士の高校に通っていたと知って驚く。
彼女の通っていた女子校にあたしは行ったことがない。毎日電車で一時間かけて通ってたのを思い出す。
「……茉莉花が沢山の生徒に支持されてたのは知ってるよな?」
あたし、頷く。
彼女は女王の如く、君臨し、それでいて誰にも憎まれない女神のような存在だった。
「不思議だろ、ボクたちの間でも噂されていたんだ。『あの美女は誰だ?』ってね」
瀬尾数臣が通っていた男子校は中高一貫の少人数制の名門校だ。現に彼は一浪した後、某国立大学に進学している。
「女子校だとそういうアイドル的存在、てのが勝手に出来てしまうみたいだな」
「しかも彼女の場合、厭味にならない」
あたしはきっぱり言う。
「そんな彼女が、ボクに告白してきたんだ。両高校ともが大騒ぎになっちまった」
え?
「じゃあ、彼女が先に接近してきたの?」
「ああ。もしかしてボクが口説いたとでも思ったかな?」
うーん……
どっちもどっちだ。
彼女と瀬尾数臣の雰囲気が凄く近いものに思える。
「あの、もしかして彼女、『彼方、アタシに似てるわね』って言ってませんでした?」
「茉莉花に聞いたのかい? まぁ、雰囲気というか思想が似ていたんだろうな。彼女が死にたいって言ってきたときも、ボクは驚かなかったし」
「……は?」
彼女が集団自殺計画を瀬尾数臣に話していた?
「なんで、止めなかったの?」
「止めても無駄ってのは、妹の君ならわかるんじゃない?」
……確かに。
もし、彼女が爪を切りながら『明日、死ぬから』と言ったら。
あたしは止めただろうか?……いや、それは無理だ。果てし無く不可能だ。
「でしょ?」
瀬尾数臣はまるで生きていた時の彼女のように話を進めていく。気づくとその話に引き込まれていくあたしがいる。
「正直、驚いたね。それに、彼女が実際事を起こした後、ちょっとだけ泣いたよ。でも、それだけ。現実はもっと厳しいよ。彼女の高校に警察やマスコミが押し寄せて、大変だったんだから」
遺族であるあたしも警察から話を聞かされたのだ、学校じゃ、二十六人も死人が出て唖然としたことだろう。
「彼女の死体は見てないよ。その方が、美しい彼女をいつまでも覚えていられるから」
合同葬は行われなかった。宗教上の問題があったからだと聞く。
ただ、学校には銅像が贈られ、そこに千羽鶴が飾られているとのこと。
「それじゃ、瀬尾さんは間接的にしか彼女の死に関わっていないんですね?」
「ああ。だってあれは正真正銘の自殺だったもの」
瀬尾数臣は自信を持って言う。
「……彼女を愛してたんですか?」
「近頃の女子高生がよくそんな言葉を言うねぇ……ボクは結局言葉で伝えることは出来なかったよ。でも、今彼女が生きているとすれば、言葉にして伝えていると思う」
「じゃあ、この指輪は何?」
ポケットの中に忍ばせておいた銀の指輪を無造作に取り出す。
瀬尾数臣はたいして驚きもせずその行為を見守る。
「誕生日プレゼントさ。懐かしいなぁ、まだ捨ててなかったんだ」
「こないだ実家に帰って部屋を整理したときに見つけたんです」
「そっか、芹夏ちゃんは寮のある学校にいるんだもんね」
しばらく指輪を睨んで、あたしは瀬尾数臣の顔を覗き込む。
「三ヶ月だったけど、楽しかったよ。彼女は沢山の男性と付き合いがあったみたいだけどボクには関係なかった。彼女の存在だけでボクは充分だった」
昔を懐かしむ表情。そういえば、今は恋人がいるのだろうか?
「いるわけないだろ。理工系に女子の絶対数は少ないんだし、それに、ボクもその気になれないからね……このまま独身かもしれないな、彼女の所為で」
彼女の所為。
彼女は今まで何人の男を泣かせたのだろうか? 今もまだ彼女は沢山の男に慕われているのだろうか?
テーブルの木目をなぞりながら、あたしは考える。
瀬尾数臣はまだ指輪を眺めている。
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