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「ナルミの心臓は闘病中のとある母親のもとへ移植された。小さな子どもを遺して逝けないと、彼女は心臓移植を受けた。老後はたくさんの孫たちにも恵まれたそうだよ。穏やかな最期だったらしい」

 あの、ところどころ垣間見えた前世の記憶はその女性へ渡した心臓の記憶だったのか。だけどどうして、と夫を見つめれば、彼はくすくす笑っている。

 騎生は専門学校を卒業後、国家資格である臨床工学技師を取得、病院内での医療機器保守および管理を任される仕事に就いていたのだ。鳴海の死に責任を感じた彼は病院勤務を経た後「いのちの橋渡し」を行う臓器移植コーディネーターとなり、国内外の臓器移植に携わった。結婚する暇などなく、ひとのために尽くし、生命を削っていった。
 鳴海の心臓の持ち主が幸せな余生を送ったことは風の便りで知った。けれど彼女は鳴海ではないのだと騎生は知っていた。
 充実した人生のなか、鳴海のことだけが心残りだった。
 転生してやり直せるのならどうしたいかと、死後の世界で神様にきかれて、騎生は思わず願ってしまったのだという――鳴海を幸せにしたいと。

「決めたんだ。生まれ変わったら、何があっても起こっても彼女を探しだして閉じ込めて自分だけのモノにする。勝手に死なれないように、監禁してでも傍に置くって」
「監禁してでも……」

 物騒な言葉を耳にしてしまった気がする。ハーマリアが怯えた瞳をしているのを見て、ルイスホレイスが苦笑する。

「なんだか前世と逆になっているみたいだな。いまの俺はハーマリアと結婚できたのにまだ物足りないんだ」
「結婚できたのに?」
「そう、結婚はしたけど、まだ繋ぎ止めて子どもをつくってる途中だからかな」
「あっ」

 はだかのままのハーマリアは彼に胸を弄られ、甘い声をあげる。前世では叶わなかった身体の重ね合い。
 ルイスホレイスは結婚して手に入れることが叶った前世の恋人をたっぷり愛するため、監禁するのも厭わないと言い放つ。
 前世で迫ってばかりいたハーマリアが、いまでは彼に溺愛されている。鳴海でいたときの記憶を取り戻したばかりのハーマリアは困惑しつつも、彼が自分を執拗に求める理由を悟り、喜びを感じていた。
 与えられる快楽に身を預け、ハーマリアはルイスホレイスの楔を最奥へ受け入れる。

「っく!」
「ハーマリア。愛してる。前世では言えなかったぶんも、これからたくさん言ってやる」
「わ、わたし、も!」

 はぁはぁと息を荒げながらハーマリアは彼の言葉を内耳に留める。
 愛してると囁かれ、下腹部がきゅんと反応する。

「ハーマリア。天使のような君がときどき悪魔みたいに見えるよ。俺をこんなにも夢中にさせて……」
「ああんっ」
「天使のような白いベビィドールばかり着せているのは、まっさらな状態の君を俺が染めたいと思っているから。黒い悪魔みたいなベビィドールは君を喪った夜を彷彿させるから、まだ、ダメだ――」

 黒いベビィドールが前世のルイスホレイスの心に深い傷を遺していたのだと知らされ、ハーマリアは悄然とする。
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