2 / 8
+ 2 +
しおりを挟む* * *
「ハーマリア? 透き通ったような肌に白いベビィドールがよく似合っているよ。なにを憂いているのかな?」
「ルイスホレイス。彼方の悪趣味につきあうつもりはないのですが」
「悪趣味? 前世で俺の前で下着を見せつけてきた露出狂の君が、そんなことを言うなんて面白いね」
前世の記憶とはなんだろう。
ハーマリアは「またはじまった」とため息をつきながら夫が着せた白いレースの下着を観察する。異国から渡ってきたベビィドールという人形に着せるような下着は銀髪と藍色の瞳を持つハーマリアによく似合っている。姿見に映る肌の面積の方が多い心もとない姿は恥ずかしいが、夫は妖精のようだと喜んでいる。
夫のルイスホレイスはトキオレナーク王国の王弟の息子だ。黄金色の髪に澄み切った翠緑の瞳が印象的な美丈夫で、国内外の女性から好意を寄せられていた。しかし彼が選んだのはトキオレナークのなかでは異質な銀髪の乙女だった。
――ルイスホレイス・レナトーク。わたしを娶りたいと国王にかけあった公爵家の跡取り息子。
ハーマリアの実家であるコールシィ家の拠点はトキオレナークの隣国で、国内での地位はそれほど高くなかった。けれど有数の魔術師を拠出している実績から、コールシィの子女は近隣諸国の有名貴族から引っ張りだこだったりする。ハーマリアもルイスホレイスのほかに三人の貴公子から求婚されていた。あたまひとつ出し抜いたのがトキオレナークの王家と繋がりを持つルイスホレイスだったというわけだ。
優秀な跡取りが欲しいのだろうとハーマリアは合点し、素直に彼との結婚を受け入れた。特に反対されることもなく、ふたりは盛大な結婚式をあげ、レナトーク家の邸で蜜月を過ごしている……のだが。
「露出狂? それはどういう意味ですか?」
「ところかまわず淫らでいやらしい姿を見せびらかすってことさ。俺のモノになったんだから、もうそんな莫迦なことはしなくていいんだぞ」
「はあ」
ところかまわず淫らでいやらしい姿を見せびらかす? 前世の自分はいったい何をしていたのだろう。
どうやらルイスホレイスと自分は前世で因縁があったらしい。彼が言うにはハーマリアの方がメンヘラで地雷女だったというけれど、そもそも地雷女ってどういう意味だろうと前世の記憶がさらさらないハーマリアは困惑する。
「白いベビィドールは気に食わなかったかい? だけど黒はダメだ。あれは悪魔を彷彿させる。でも、君が望んだんだよ。結婚したい、結婚して早く子作りしないと――死んじゃうって」
そう言いながら寝台まで運ばれてハーマリアはルイスホレイスの口づけを受け入れる。
前世の記憶を覚えている彼は、いまのハーマリアが物足りないのだろうか。受け身でいるだけのハーマリアはどうすればいいのかわからないまま、彼の手ではだかにされる。
10
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。
かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。
ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。
二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

5年経っても軽率に故郷に戻っては駄目!
158
恋愛
伯爵令嬢であるオリビアは、この世界が前世でやった乙女ゲームの世界であることに気づく。このまま学園に入学してしまうと、死亡エンドの可能性があるため学園に入学する前に家出することにした。婚約者もさらっとスルーして、早や5年。結局誰ルートを主人公は選んだのかしらと軽率にも故郷に舞い戻ってしまい・・・
2話完結を目指してます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる