82 / 84
* simple work to look on in the two who are not saved / Reiko Katohgi
chapter,4 + 23 +
しおりを挟む
* * *
戸籍から亜桜小手毬という名前が消えたため、彼女は「手毬」に名を改めた。
自由も「サダヨシ」ではなく「ジユウ」と彼女の前で名乗っている。兄妹であることは黙ったまま、幼い頃から結婚を約束した恋人だと教えると、手毬は素直に納得し、それ以上問いただすこともなくなった。
「じゃあ、ジユウ……さん?」
「そうだよ、手毬」
だが、たまに自由が彼女のことを小手毬と呼んでしまうため、「あたし、テマリ? コデマリじゃなくて?」と不安そうな声をあげることがあった。
そんなときは「コデマリっていうのはむかしの、小さいときの呼び名だったから……」と自由は淋しそうに微笑うのだ。
ふたりのもどかしいやりとりを見守っていた菊花は、彼女を諭す。
「貴女はもう小さな子どもじゃない。ジユウとふたりで新しい名前で生きていくの」
そう言われて以来、彼女は自分のことを受け入れ、「テマリ」と呼ぶようになった。
菊花を自分の本当の母親であることを知らない手毬だったが、彼女の言葉は不思議と乾いた土に染み渡る水のように素直に飲み込める。そのことを自由に伝えると「彼女は悪いひとじゃないけど、深く関わらなくていい」と窘められてしまった。
もしかしたら嫉妬、だろうか。手毬は首を傾げつつも、自由が嫌がるのならと、自ら菊花に近づくことをやめた。
陸奥と加藤木は地域医療センターへ戻ることになり、手毬のケアは自由ひとりで行うことになった。
ようやく彼は念願の彼女の担当医になれたのだ。
菊花が管理している施設で手毬は自由とふたりで過ごしながら、体力を回復させていく。
ときどき淫らな夢を見ておかしくなりそうになったけれど、自由にそのことを告白して以来、彼が毎晩気持ちいいことを教えてくれるようになった。
「手毬は俺だけのものだからな」
「うん」
失われた記憶に言及することなく、自由は手毬を囲い、溺愛する。
そんな箱庭での優しい日々も、残すところあとちょっと。
ふたりはもうすぐ、この国を出て結婚する。
戸籍から亜桜小手毬という名前が消えたため、彼女は「手毬」に名を改めた。
自由も「サダヨシ」ではなく「ジユウ」と彼女の前で名乗っている。兄妹であることは黙ったまま、幼い頃から結婚を約束した恋人だと教えると、手毬は素直に納得し、それ以上問いただすこともなくなった。
「じゃあ、ジユウ……さん?」
「そうだよ、手毬」
だが、たまに自由が彼女のことを小手毬と呼んでしまうため、「あたし、テマリ? コデマリじゃなくて?」と不安そうな声をあげることがあった。
そんなときは「コデマリっていうのはむかしの、小さいときの呼び名だったから……」と自由は淋しそうに微笑うのだ。
ふたりのもどかしいやりとりを見守っていた菊花は、彼女を諭す。
「貴女はもう小さな子どもじゃない。ジユウとふたりで新しい名前で生きていくの」
そう言われて以来、彼女は自分のことを受け入れ、「テマリ」と呼ぶようになった。
菊花を自分の本当の母親であることを知らない手毬だったが、彼女の言葉は不思議と乾いた土に染み渡る水のように素直に飲み込める。そのことを自由に伝えると「彼女は悪いひとじゃないけど、深く関わらなくていい」と窘められてしまった。
もしかしたら嫉妬、だろうか。手毬は首を傾げつつも、自由が嫌がるのならと、自ら菊花に近づくことをやめた。
陸奥と加藤木は地域医療センターへ戻ることになり、手毬のケアは自由ひとりで行うことになった。
ようやく彼は念願の彼女の担当医になれたのだ。
菊花が管理している施設で手毬は自由とふたりで過ごしながら、体力を回復させていく。
ときどき淫らな夢を見ておかしくなりそうになったけれど、自由にそのことを告白して以来、彼が毎晩気持ちいいことを教えてくれるようになった。
「手毬は俺だけのものだからな」
「うん」
失われた記憶に言及することなく、自由は手毬を囲い、溺愛する。
そんな箱庭での優しい日々も、残すところあとちょっと。
ふたりはもうすぐ、この国を出て結婚する。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
契約妻ですが極甘御曹司の執愛に溺れそうです
冬野まゆ
恋愛
経営難に陥った実家の酒造を救うため、最悪の縁談を受けてしまったOLの千春。そんな彼女を助けてくれたのは、密かに思いを寄せていた大企業の御曹司・涼弥だった。結婚に関する面倒事を避けたい彼から、援助と引き換えの契約結婚を提案された千春は、藁にも縋る思いでそれを了承する。しかし旧知の仲とはいえ、本来なら結ばれるはずのない雲の上の人。たとえ愛されなくても彼の良き妻になろうと決意する千春だったが……「可愛い千春。もっと俺のことだけ考えて」いざ始まった新婚生活は至れり尽くせりの溺愛の日々で!? 拗らせ両片思い夫婦の、じれじれすれ違いラブ!
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
Home, Sweet Home
茜色
恋愛
OL生活7年目の庄野鞠子(しょうのまりこ)は、5つ年上の上司、藤堂達矢(とうどうたつや)に密かにあこがれている。あるアクシデントのせいで自宅マンションに戻れなくなった藤堂のために、鞠子は自分が暮らす一軒家に藤堂を泊まらせ、そのまま期間限定で同居することを提案する。
亡き祖母から受け継いだ古い家での共同生活は、かつて封印したはずの恋心を密かに蘇らせることになり・・・。
☆ 全19話です。オフィスラブと謳っていますが、オフィスのシーンは少なめです 。「ムーンライトノベルズ」様に投稿済のものを一部改稿しております。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる