恋愛麻酔 ーLove Anesthesiaー

ささゆき細雪

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* simple work to look on in the two who are not saved / Reiko Katohgi

chapter,4 + 10 +

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「んっ」

 小手毬の喘ぐ声だけが無機質な病室に響く。
 ここにはオソザキが贈ってくれた花もない。色鮮やかな花たちと過ごした日々の、不健全でありながらなんと健全だったことか。
 身体は健全になっても、この場所は不健全だ。真っ白な、小手毬を閉じ込めるための、“器”を覚醒させるための空間。
 もうすぐ“審判の日”が訪れるのだという。“女神”が、次の“諸神様”の加護を与えるために“器”に精を注ぎ込む相手を選ぶ儀式の日。
 誰が小手毬の相手になっても、快楽に従順でなければいけない。女神さまが選んだ相手に、間違いはないのだから。
 
 小手毬は赤根一族が推している赤根雨龍と身体を繋げることになるのだろうと、漠然と思っている。
 けれど雨龍はそのときが来ていないからと小手毬に指一本ふれてくれない。
 彼は何を考えているのだろう。
 そしてこの滑稽な信仰に巻き込まれた陸奥も、小手毬から逃げ出すことなく、傍にいる。
 小手毬が無理難題を押し付けても、必要最低限の答えを導き出して。

 処置を行っている際に瀬尾が言葉を発しないのは“諸神様”の加護を受けるに値しない人間だからだと聞いた。
 赤根一族のなかでも“諸神信仰”に傾倒している瀬尾は、亜桜家とも深い関係を持っている。けれど彼は雨龍と同じ“春”の人間だ。
 もしかしたら雨龍のお目付け役も兼ねているのかもしれない。彼が責務から逃れられないよう、小手毬を躾けて……
 敏感な場所へ手袋越しの手がふれる。瀬尾は手術用のグローブで小手毬を愛撫する。ゴムの感触が肌にあたる違和感はやがて薄れ、身体は素直に彼の指を受け入れる。最奥まではいることのない、花園の入り口だけを丹念に、丁寧に耕していく。

 ふだんなら、そこで終わるはず、だった。

「お前、何――……っ!」

 バタンという大きな音とともに、ガシャンという何かが割れる音、すこしおいてからゴッ……という鈍い音が響く。
 瀬尾の誰何を問う声も途中で消え、病室内がしん、と静まり返る。そうかと思えば、こちらに近づいてくる、靴音。
 視覚を遮られたことでほかの五感が鋭敏になっていることもあり、小手毬はハッとする。

 ――侵入者だ!!

「だ、れ」

 さんざん啼かされて枯れかけた声で、小手毬は弱々しく呟く。全裸で包帯を巻かれ、拘束された彼女は抵抗できない。おまけに瀬尾に施された媚薬の効果はいまも続いている。“器”としての責務を果たせないまま自分はこんなところで犯されてしまうのだろうか。

「しっ……」

 騒がないで、聞き覚えのある声がパニックに陥りかけていた小手毬の内耳に届く。
 その声に、小手毬は絶句する。



「ジユウ、おにいちゃん……?」
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