6 / 84
* long long prologue / Sadayoshi Moromizato *
chapter,1 + 5 +
しおりを挟む* * *
「ジユウだろ?」
そして冬のはじまり。いつものように、面会終了時間まで小手毬の穏やかな寝顔を見つめていた自由は、呼び止められて首を傾げる。
自由をジユウと呼ぶ、懐かしい女性はひとりしかいない。
「……赤根先輩」
「お久しぶり。やっぱり君だったんだ、少女の騎士は」
小手毬のことを言っているのだろう。そういえば彼女は幼い頃の小手毬と面識があったはずだ。小手毬は覚えていないだろうけど。
「ドイツから戻られていたんですね」
自由とさほど変わらない女性にしては高い背丈、身につけているのはオレンジに近いピンク色の白衣、そして髪型はボーイッシュなショートカット。彼女の外見は、大学時代と変わっていない……白衣を慣れたように着ているのを除いて。
「まぁな。ところでジユウ、気づいてないのか?」
「はい?」
「結婚したから苗字変わったんだよ。アカネからナラシノに」
そう言って、胸ポケットにつけている名札を見せる。確かに、「医師 楢篠」と記されている。
「け、結婚……?」
冷静に応えると、楢篠はぷぃと顔を背ける。どうやら怒らせてしまったようだ。
「言葉のあやよ。揚げ足とるんじゃないの」
「……はい」
しょんぼりしてしまった自由を宥めるように四つ年上の先輩は呟く。
「まったく。君は変わらないね」
「そうですか?」
カツン、カツンとリノリウムの床にふたりぶんの足音が響く。窓の向こうは橙色に染まり、西の空は真っ赤に燃え上がっている。まるで火事のように。アスファルトの上に流れた小手毬の血のように……
「少しはいい男になってるかと思ったけど、全然駄目だ」
「厳しいですね」
それでも楢篠は糾弾をやめない。苦笑を漏らす自由に、打ちのめすような言葉を返す。
「いつまで彼女に拘る? あの女の子がジユウにとって大切だってのはわかっているが、個人的な感情で物事を左右しつづける生活を送りつづけていたら」
真顔になって、続ける。
「近い将来、破滅するぞ」
楢篠の警告を、自由はさらりと受け流す。
「知ってます。でも、今だけですから」
植物人間の小手毬の傍にいられるのは、今しかないと、自由は力説する。
「あと半年も猶予はないけどな。それでもいいなら好きにしな」
楢篠はそう言って、連絡口から外へ出て行く。それ以上、聞いてくることはなさそうだ。単に興味がないだけかもしれないが。
「先輩に言われなくても……好きにしますよ」
まるで自由の言葉を予想していたかのような楢篠の反応に、驚きつつも納得してしまう。彼女はいつだって冷静で客観的視点から物事を判断している、元教え子の生半可な考えなど当然のように推測できていたのだろう。
毒づきながら、自由も追いかける。無機質な病院の白い建物から出ると、そこは。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ミックスド★バス~湯けむりマッサージは至福のとき
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
温子の疲れを癒そうと、水川が温泉旅行を提案。温泉地での水川からのマッサージに、温子は身も心も蕩けて……❤︎
ミックスド★バスの第4弾です。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
【R18】もう一度セックスに溺れて
ちゅー
恋愛
--------------------------------------
「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」
過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。
--------------------------------------
結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
完結【R―18】様々な情事 短編集
秋刀魚妹子
恋愛
本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。
タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。
好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。
基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。
同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。
※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。
※ 更新は不定期です。
それでは、楽しんで頂けたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる