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* long long prologue / Sadayoshi Moromizato *
chapter,1 + 3 +
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小手毬の昏睡状態は続いている。
「人形みたいな女の子ね」
毎日、花束を持って病室に見舞いにくる女性を、自由は無表情で見つめつづけた。
最初のうちは言葉を交わすのも嫌だった。
あまりに子どもじみているとは思う、だが自由は彼女を許すことができずにいる。剥き出しの憎悪を吐き出して更に惨めになるよりは、自分の殻に閉じこもって外部からの接触を遮断した方が無難だと、そう考えたから無視していた。
だが、時間の経過とともに、自由も冷静になった。
いつまでも落ち込んでいるわけにはいかない。彼女が目覚めることを信じて、優しく見守りたいと、そう思ったから。
加害者を許すことはできない。それでも、無言の逢瀬を二ヶ月ほど続けたある日、会話をするようになった。
小手毬も、彼女を責めるようなことを望んではいないだろう。彼女はそういう子だ。
「授業はよろしいの?」
「夕方になったら戻りますよ」
自由は共働きの小手毬の両親に代わって、大学の授業の合間にちょくちょく小手毬を見舞っていた。幸運にも、そういうことができる環境だった。それに、経験が浅い彼は彼女のためにできることが、なかった。見舞うことしかできなかった。
彼が「亜桜小手毬」と記された個室に行くと、高い確率で、彼女と会う……小手毬をはねた事故の加害者と。
加害者である女性は坂猪優璃と名乗った。
事故の責任は自分にあると、誠意を込めて小手毬を見舞っていた。加入していた自動車保険だけでは償いきれないと、若い頃から貯めていた結婚資金をすべて、小手毬の治療費に捻出してくれた。個室を準備してくれたのも彼女だ。
病室には毎日、異なる花が飾られる。赤と白の絞り模様がのぞく八重のカーネーションに、赤、白、黄、緑、紫、桃、橙色と、グラデーションが豊かな七色のチューリップ、気高い女王のように凛と佇むオールドローズに鮮やかな色彩を抱くリガールリリィ……自由の知らない花もたくさんあった。
冬だというのに、彩り豊かな花々が、眠りつづける小手毬を包み込む。まるで病室自体がガラスの棺のようだと自由は苦笑する。それでも、無機質な病室に彼女をひとりきりにさせるよりはマシだと優璃は呟く。
「でも、あなたがいるから、淋しくはないのかもしれないわね」
交通事故の傷跡は、そう簡単には癒されないだろう。
だが、自由は同じように痛みを感じている優璃に、近親感を抱くようになっていた。
「幼稚な独占欲ですよ」
自嘲するように、自由は応える。
「僕は、耐えられないだけなんです」
――彼女のいない世界が。
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