劇薬博士の溺愛処方

ささゆき細雪

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七夕番外編

短冊より愛を込めて(後編)

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   * * *


 ――結局、朝まで抱かれっぱなしだったなぁ。

 早漏をセーブした努力の成果か、最近の琉は三葉を啼かせるだけ啼かせてからコンドーム越しに果てるようになった。もちろん、ゴムは三葉が自分のお店で琉のためにセレクトしたものだ。
 先日の夜も体位を変えては三葉の悦いところを擦りたて、よがらせて、快楽の波をコントロールした。深緑の熱帯雨林のような部屋で、彼によって淫らに仕立てられ、最後は備え付けの麻縄で両手首を拘束されたまま、さんざん苛められるようなセックスをしてしまった。泥のように眠って、目覚めたらひどい腰痛だ。
 おまけにその翌日から月のものが訪れた。チェックアウトの際に気づいた三葉が告げれば、琉にひどく心配されてしまった。
 さいわい生理痛は軽いし、琉に逢えないあいだに終わるから大丈夫、と告げれば、無理するなよ、と甘い口づけを返してくれた――……

 カレンダーは七月に入っている。琉は大阪の方で行われるという整形外科学会、だったかリハビリテーション学会、だったかその両方だったかとにかくお仕事のため先ほど東京駅から新幹線に乗ったとのメールを送ってきた。体調は大丈夫か? と心配する一言も添えて。あの夜のことを思い出すと身体が疼いてしまうのは、彼による調教にも似た愛の行為の帰結だろうか。
 はぁ、とため息をこぼす三葉の背後から、叔母の声がかかる。

「三葉ちゃん、いまお客さんいないみたいだから、レジ横の引き出しに入ってる短冊飾っといてよ」
「あ、こんなところにあったんですね」

 琉と飾りつけをした笹の葉は自動ドアのところに設置済みだ。あとはこの短冊をひとつひとつ飾るだけ。
 馴染みの客や親戚の子どもたちに頼み込んで作る二十枚前後の短冊には「借金返済」や「競馬で勝てますように」というアダルティなものから「プリンセスになりたい」「ゆーちゅーばーになりたい」という子どもたちのものまでさまざまで、思わず読みふけってしまう。
 接客をはさみながら短冊を笹の葉に吊るした三葉は、見慣れた人物の筆跡を見つけ、目をまるくする。

 ――これ、先生の文字、だよね?

「叔母さん、今年も馴染み客と親戚の子たちの願い事を短冊に書いてもらったんだよね?」
「そうよー、三葉が仲良くしてる地域医療センターのお医者様、三葉ちゃんが早帰りした水曜日の夜にたまたまふたりでいらしたからそのときに一筆書いてもらったのよー」
「!?」

 たしかに琉が書いたものらしき橙色の短冊ともう一枚、黄緑色の短冊にも馴染みのある丸文字が……これは飛鷹先生だ。

「ふたりとも面白いこと書いてたわね」
「……これ、お店の笹の葉に飾っていいんですか」
「いいんじゃない? へるもんじゃないし」

 琉の職場の同僚である飛鷹は「三葉ちゃんみたいな彼女がほしい」……いやこれ単純に「彼女がほしい」だけでいいよね? なんで固有名詞を短冊にわざわざ書き込むかな? ……という願い事だし、恋人の琉に至っては「三葉さんを俺にください」と……いやだからこれ短冊だから! なんでお客さんが見てくれる短冊に固有名詞をばっちり書き込むかな? しかも俺にくださいってなんで結婚を申し込む体で短冊に書くの!?

「三葉ちゃんモテモテね。おばちゃん結婚式に呼ばれる日も近いかしら?」
「……あ、あはは」

 乾いた笑みを浮かべる三葉だったが、空白の短冊を拾い上げ、真顔に戻る。

「最後の一枚は三葉ちゃんに残しておいたから。すきなこと書いて飾りなさい」
「すきなこと……」

 商売繁盛、と書こうと思っていた三葉は、思い直し、ボールペンを走らせる。

「……よし」

 うん、と頷いて笹の葉のてっぺんに飛鷹の短冊を飾る。その下に、琉の短冊と並ばせるように自分の短冊を吊るして。

「写真撮っていいですか?」
「いいわよー、彼氏に送ってあげなさい」

 三葉の願い事を確認したわけでもないのに叔母は楽しそうに快く応えてくれた。パシャリ、スマホで撮影した写真をメールに添付して、琉に送る。

 ーーこれがいまのわたしのせいいっぱい。

 七夕の、星祭りの夜が終わったら、彼はどんな顔をして逢いに来てくれるだろう? 


   * * *


 新幹線のなかでうとうとしていた琉は、恋人からのメール着信で覚醒し、先日飾りつけした笹の葉の写真を見てほくそ笑む。

 あの日の夜も素晴らしかった。もはや彼女にしか欲情できない自分は、さまざまなシチュエーションで彼女を淫らにうつくしく魅せて、貪るように堪能してしまう。遅効性の毒薬みたいにいまもなお彼を翻弄させる彼女の艶姿を、今週は味わえないのだなと思うと残念だが仕方ない。

「ったく……なにが商売繁盛だよ」

 添付された笹飾りの写真をズームアップすると、短冊の願い事も難なく読み取れる。きっと琉に対する意趣返しなのだろう。苦笑を浮かべ、いとおしそうに画面を見つめる彼の瞳は優しく凪いでいる。

 琉が書いた「三葉さんを俺にください」の橙色の短冊の隣に、三葉が書いた薄紅色の短冊が並んでいる。その文面は……


 ――琉せんせいのお嫁さんになれますように。



“劇薬博士の溺愛処方 七夕番外編 fin.”  
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