劇薬博士の溺愛処方

ささゆき細雪

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後日譚編

誰が為の自慰 + 7 +

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 ふだんから三葉と琉が金曜日の夜を過ごすのは、歌舞伎町のホテル街の入り口を抜けてすぐに脇道に入ったところにある古くて小ぢんまりとしたラブホテルが多い。どっちにしろ目的は同じだが、大通りのネオンがギラギラで室内も若者向けのアクティビティが満載の新しいラブホテルよりも、昔ながらのAV放送が垂れ流しされているテレビと清潔なベッドがあるだけのシンプルな部屋の方が恋人の時間を安心して満喫できるからだ。
 けれどもそのふだん通り、という甘えにも似た行動が、ふたりのマンネリ化を招いているという現実に、三葉は気づいてしまった。

「きょ、今日はここにしませんか?」
「いいの? 三葉くんは派手なところ苦手だって」
「だ、だってヤることは同じじゃないですかっ」
「つまり、三葉くんも俺とエッチなことをするの、期待しているってわけだね」
「……え、えっと」
「ほんと可愛いな、俺の三葉は」

 季節は冬。クリスマスのネオンがあちこちで煌めく師走の街並みを楽しみながら、新宿西口から東口に出てきた三葉と琉は、ホテル街の入り口からさほど離れていない、新しくできたばかりのホテルの建物の前に立っていた。
 金曜日の夜九時半、ということもあり周囲には仕事帰りのスーツを着た男女の姿もちらほら見受けられる。
 ベージュのコートを着た三葉の手をぎゅっと繋いだまま、琉は堂々とホテルに入り、タッチパネルで手早く部屋を取る。時間的に満室間近だったらしく、最上階の価格的にもいちばん高い部屋になってしまった。
 ふだん過ごすホテルの部屋よりもずっと高いです、と焦る三葉だが、琉は気にすることなく彼女をぐいぐい引っ張りエレベーターへ乗せる。

 ドアが閉まると同時に、琉は三葉を抱き寄せ、啄むようなキスをはじめた。ガラス張りのエレベーターが真っ暗な夜空の高みへ昇っていくなかで、三葉は軽い酸欠状態に陥りながらも、彼からの優しいキスを受け止め、三葉の気持ちも盛り上がっていく。


 カードキーで部屋の扉を開けば、そこは鏡張りの部屋だった。
 
「……!?」
「三葉くんも大胆だねぇ」

 モノクロのベッドと床以外、壁という壁すべてが鏡で構成された、まるでミラーボールの内部にいるような部屋のつくりに驚く三葉を見て、琉はくすくす笑っている。

「このホテル、全室共通の特徴があって、ベッドルームは全面鏡張りが売りなの、知らなかった?」
「知らなかった、です……」

 三葉は、琉がはじめからそのことを知っていてあえて口にしていなかったのだと気づき、唖然とする。

「先生、知ってたの?」
「知ってたよ? ラブホ検索アプリで調べたときに見たんだ。だから言ったでしょ、派手なところだ、って」
「派手……の意味合いがちょっと」

 三葉が想像していたのはプラネタリウムのような、電気を消したら蛍光色の絵が浮き出る壁とかカラフルな照明とか正方形じゃないベッドとかそういったものだったのだが、まさか全面鏡張りが売りだったとは……扉の前で唖然とする恋人の肩をぽん、と叩いて琉はすたすたと部屋のなかへと入っていく。

「ぼーっと突っ立ってないで、はやくこっちにおいで。ぜんぶ鏡だから、俺や三葉がいっぱいいるぞ!」
「……う、はい」

 ふだんとは異なるシチュエーションだからか、浮かれてベッドのスプリングを確かめる琉を見て、三葉も意を決して鏡張りの室内へと足を踏み入れていく。
 視界に影響がないよう設計されているのか、照明でキラキラ反射する鏡の壁は思ったよりも眩しくなく、三葉はよろめくこともなく琉が待つベッドに辿り着いた。
 自分の横にそっと腰を下ろした三葉を見て、琉は先ほど彼女の店で購入した商品をひとつひとつ取り出していく。

「これは、俺の。こっちは、三葉の」
「え、わたしの!?」
「それで、このローションは、ふたりの」

 訥々と告げて琉は三葉の身体を抱き寄せ、エレベーター内でしていたキスのつづきをはじめる。

「んぁっ……せんせ……」
「今夜は早漏なんて絶対に言わせないからな」
「やっぱり根に持っていたんですね……んっ」
「男の股間……いや、沽券にかかる発言だからな」

 啄むような口づけはやがて舌を使ったものへと変わり、ふたりは覆い被さるようにベッドの上へと倒れこむ。

「まずは鏡の部屋での相互観賞だな」
「ソーゴ、カンショー……」

 蕩けるようなキスであたまのなかが沸騰しつつある三葉は、言葉の意味を理解しないまま、彼の言葉を唱えていた。
 そうだよ、と三葉への口づけをつづけながら、琉は甘く囁く。

「今夜はたっぷり愛し合えるように、お互いの自慰を見せ合いっこするんだ」


 ――そのために琉はオナホと、三葉のためのピンクローターを購入したのだから。
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