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Ⅸ 月下美人は商人の花嫁
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夜、静まり返った真っ暗な石牢に、複数の足音が響く。
身体を丸めた状態で瞼を瞑り、石像のようにじっとしていたザイードは、億劫そうに身体を起こし、何事かと周囲を見渡す。
燭台を手にした兵士たちとともに現れたのは、真っ赤なマントを纏ったオスマン帝国の精悍なる青年王、ムラト二世だ。小さなガラス瓶を手に、ぎらぎらと漆黒の瞳を滾らせ、睨めつけるようにこちらを見下ろす姿に、ザイードはついに来る時が来たのかと嘆息し、ゆうらりと立ち上がる。
「ザイード。お前の処遇が決まったよ。牢から出ておいで」
「ムラト様」
「ここで死んでもいい、なんて顔をしないでおくれ。たしかにお前が犯した罪は大きいが、だからといって誰もいない牢のなかで寂しく腐らせるなんてことはしないよ。もったいないじゃないか」
「……もったいない?」
「ああ。せっかく白銀の姫君が来てくれたんだ。お前だって顔を拝みたいだろう? 銀髪銀眼の美しい容貌を」
「……銀髪銀眼。亜麻色ではないのか」
「そうだよザイード。お前が頭巾で隠している美しい銀の髪にそっくりなんだ。本人は亜麻色に染めてごまかしていたなんて口にしているけれど、どうにも腑に落ちないんだよ。それでだ」
ちゃぷん、と小瓶のなかの液体が音を鳴らす。
それはスルタンを暗殺するために持ち出された毒薬のようにも見えるが、暗がりのなかではその中身が何かまでは判断できない。ムラトは白銀の姫君がこの小瓶を持っていたから取り上げたのだと笑いながらザイードの眼前へ持ってくる。ほのかに蜂蜜の香りがするそれを、ザイードは凝視する。
「毒見しろ、ザイード」
「……はっ」
ムラトが小瓶の蓋を開け、そのままザイードの口元へ流し込む。量にすればほんの数滴の薬液だろうが、とろみのある液体を口に含んだザイードはその甘ったるさに思わず咳き込んでしまう。
「――これは、毒薬ではない……のか」
「お前にとってみたら、死よりも惨い薬かもしれないがな。この甘い毒は」
「な……っ!?」
ムラトに飲まされたのが媚薬だったと悟ったザイードは目を見開き、自分の身体が否応なく昂っていくのに竦然とする。
「間抜けな姿だな、ザイード。薬がこれからどう効くのか楽しみだよ」
歩みを止めることなく進むムラトをザイードがふらつきながら追いかけていく。既に彼は顔を火照らせ、息を荒げていた。
やがてムラトの足が止まり、ザイードは顔を上げる。
そこには、ザイードのように顔を真っ赤に染めた美しい女性が生まれたままの姿で広間の柱にくくりつけられている。
「リリアンナ……!?」
はぁ、はぁと息も絶え絶えに喘ぎながら、ザイード同様媚薬を口に含まされた銀髪銀眼の“白銀の姫君”――リリが瞳を潤ませてザイードの方を見る。
「さぁ、感動のご対面だ。ザイードよ、美しく育った孫娘が犯される様を、悶え苦しみながら見ているがよい!」
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