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Ⅸ 月下美人は商人の花嫁
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しおりを挟む有無を言わせぬ口調でムラトに引き合わされたのは、三十路近い女性だった。
彼女は前の後宮が解散した際に唯一残った行くあてのなかった女性で、ムラトも妻というより母親のような感じで接しているのだという。彼の筆おろしを頼むと命じると、彼女はあっさりとデーヴィットを華やかな部屋に招き入れ、抵抗できないなか、服を脱がしていく。
裸にさせられたデーヴィットは乙女のように恥じらいを見せ、ムラトの笑いを誘う。
「おやおや、立派なモノを持っているじゃないの。初めての娘さんを抱くときはたくさん解してあげるといいですよ……こんな風に」
むにゅ、と弾力ある乳房を押し付けられ、若い男子の身体は驚くほど素直に反応した。
ふふふ、と妖艶な笑みを浮かべる女性はムラトの前でにっこり微笑み、「あとはまかてくださいな」と部屋の扉をバタンと閉める。
ムラトに筆おろしを見届けられる惨事を免れることはできたが、デーヴィットがこの後魂を吸い取られる勢いで童貞を奪われ、その快感を刻み付けられてしまったものだからたまらない。
後宮で無理やり筆おろしをさせられたデーヴィットの呆けた表情ですべてを察したムラトは、ふたたび少年らしい大爆笑をした。
そして父の商談が終わり、宮殿を去る際に、ムラトは言ったのだ。
「さっきは驚かせてごめんね。その代わり、この鉢をあげる」
「……これ、何だ?」
むすっとした表情のデーヴィットに渡されたのは、肉厚の葉を持つ鉢植えだった。
デーヴィットの父親に渡し損ねた鉢植えで、それほど価値はないが貴重な花なのだという。
「月下美人。きみの国の言葉だと、エピフィリウムっていう、珍しい花の鉢」
「月下、美人」
「百年に一度咲くという幻の花だよ。いつか君が愛する月下美人とその花を見られるよう、願っているよ」
「勝手に筆おろしさせた癖に、何図々しいこと」
「でも気持ちよかったでしょ」
「……まぁ、な」
少年王の気まぐれに付き合わされた商人の息子は渋々頷き、鉢植えを受け取った。
――オスマンの地を去る際に父から聞いた話だと、やはりムラトは兄を殺してスルタンになったのだという。
同い年の友達もいないなか、後宮で女たちに慰めてもらうばかりの日々に飽きていた彼にとって、数日でも滞在してくれたデーヴィットの存在は良いスパイスになったのだろう。
月下美人の鉢植えを手に、彼は大英国へ帰ったのち、父の跡を継ぐべく、勉学に励む日々に戻った。
悪戯な少年王との思い出はまるで白昼夢のようだったが、皮肉にも後宮での経験が功を奏したのか、女性と関係を持つことに幻想を抱かなくなったのも事実だ。
そして、いつしか彼も理解していく。
自分が近いうち、恋だの愛だの言ってられない、利害関係の一致による結婚を強いられるという現実に――……
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