111 / 146
Ⅸ 月下美人は商人の花嫁
+ 16 +
しおりを挟む唖然とするダヴィデを前に、それでも色仕掛けしないといけないのよね、だからイデアの媚薬で彼を気持ちよくしてあげられるように頑張らなくちゃとぶつぶつ呟くリリを前に、ダヴィデは苦笑を浮かべる。
エーヴァとの激しい行為はリリを圧倒させてしまったらしい。すべての男性が女性にそのように振る舞うわけではないが、それでも子を孕ますため、互いを満足させるための手段に変わりはない。
リリの整った容姿はオスマンの血が入っているからか異国的で、エーヴァの可憐さとはひと味違う魅力がある。おまけに神秘的な銀の髪に銀の瞳だ、本人が隠していたところでその美しさは漏れ出てしまったのだろう。テッサロニキの権力者に求められてしまうだけの要素は充分にある美人だ。オスマンのスルタンの趣味がどのようなものかはわからないが、たいていの男はリリのような女性に迫られたら喜んで一夜を共にするだろう。
だが、エーヴァを知ってしまったダヴィデはもう、彼女以外抱く気になれなくなってしまった。彼女だから、一緒に口に含んだ媚薬で気持ちを高められても興奮していつまでも行為に耽っていられたのだ。そのことをリリに伝えたところで彼女が理解してくれるとも思えないが……
互いに昨晩の行為に思いを馳せていたふたりの耳元に、カツンカツンと音が響く。
ダヴィデとリリは慌てて最敬礼を取り、スルタンの登場を待つ。
「よいよい、堅苦しいことは抜きだ。よく来てくれた、デーヴィット・バーヴェッジ……いや、今はダヴィデ、と名乗っておるのか」
「ご無沙汰しております、ムラト二世」
にこやかに歓迎するムラトを前に、ぎょっとするリリ。
――え、ダヴィデさまってスルタンと面識あったの?
「風の噂で死んだと聞いたが……生きてたんだな」
「デーヴィットは死にました。ここにいるのは彼が持っていたものを放棄したただのダヴィデです」
「じゃあ、はじめましてだな」
ダヴィデの発言を素直に受け止めたムラトはスルタンらしからぬ黒い装束をしていた。敵国領内だから、念のためおとなしい格好をしているのだろう。
とはいえ足元の靴だけが黄金色で、どこかちぐはぐしている。
リリの目線に気づいたのか、ムラトが端正な顔を彼女に向ける。
「その美しき娘が、ルクリエンテの“白銀の姫君”か……」
澄み切った黒曜石のような瞳に射抜かれ、リリは口をぱくぱくさせたまま、こくりと頷く。
ダヴィデはふたりの出逢いが好感触であることを悟り、ふうと息を吐く。が。
「――こいつは偽物だな。報告では、“亜麻色”の髪とあったが…」
「そ、それは染めていたからで……」
慌てて弁解するリリを前に、ムラトがはぁとため息をつく。
「疑わしきは罰せよ、という父上の言葉がある。悪いな、ダヴィデ。その娘も“白銀の姫君”に変わりはないだろうが、おれが求める乙女ではないようだ」
「な」
「どうせ兄上に儲け話の一環として唆されたクチだろ? きみたちを拘束すれば、兄上はどんな反応をするかな? 本物の“白銀の姫君”と交換しろって要求したら、素直に差し出してくれるかな?」
意地の悪そうな黒い瞳に見眇られ、ダヴィデは無言で睨み返す。その反応を見て、ムラトが嬉しそうに告げる。
「応えろ、ダヴィデ。本物の偽物の“白銀の姫君”はどこにいる?」
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる