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Ⅶ 月下美人と砂漠の薔薇
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しおりを挟む「主人は、子どもに危害を与えようとしたわしを見てもうお前など不要だと、修道院へ送ったのだよ。鉛色から更に不吉な臙脂色になった、わしなんかよりも美しい銀の瞳を持つ女子が生まれたからねぇ」
「そんな……」
「その後、主人は東ローマからオスマンに寝返った。そして“白銀の姫君”を後宮へ献上する約束をとりつけ、契約の証に“砂漠の薔薇”を預かった。けれど約束は果たされず、ルクリエンテは潰された。あいつらが死んだと聞いてもどうも思わなかったよ。ただ、アリーズがどうしているかだけが、気がかりだったさ」
「……」
遠い目をする老女は、エーヴァを見て微笑む。
「アリーズの瞳の色は、何色だったかえ?」
「……藍色でした」
まるで夜空のような深い、藍色の瞳で幼いエーヴァを見守っていてくれた。
星屑のような銀髪に、夜を溶かし込んだような藍色の瞳を持っていた、美しいひと。
エーヴァは父親に似たからか、亜麻色の髪に鉛のような銀の瞳だけど。
「そう、藍色に変化したの。よかった」
「よかった……?」
「かつてのルクリエンテでは、妃の瞳の色が銀から何色に変化するかで、未来を占っていた……特に、赤く変化すると不吉だと言われておった……」
だからわしは棄てられたのだよ、と自嘲しながら、エーヴァに告げる。
「――アリーズの瞳の色が銀色だったのは、お前さんを身籠る前まで。お前さんの瞳の色も、子を宿し、女子を産めば変わるのだろうよ。不吉な赤か、幸福な青へ」
「……でも、お母様は病で」
「もうこの世にいないことは知っておる。トンマーゾが知らせてくれた。お前さんは、愛されてここまで育ったのだね……すべてを優しく受け入れてくれる麗しの水の都で」
「!」
老女は驚くエーヴァの反応を確かめてから、臙脂色の瞳を細めて、ぽつりと零す。
皮肉な運命を嘲笑うかのように、口角を歪ませながら。
「だけど、お前さんはすべてを知らないのだろう? だから、ここにいる。アリーズとブラジウスの娘、エヴェリーナ。ルクリエンテの禁忌である近親婚によって産まれた“砂漠の薔薇”の娘よ」
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