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Ⅱ 月下美人と偽りの初夜
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お気に入りの侍女の表情の変化に素早く気づいたディアーナは、ここぞとばかりに彼女の耳元で囁く。
「またカルネヴァーレでお逢いしましょう、なんて言われたらエーヴァのことだもの、きっと断れなかったんじゃない?」
「お嬢様……まるで見てきたような言い方をするんですね」
「あらあら図星? もしやキスのひとつでも贈られた?」
「……」
「ちょっとエーヴァ?」
「――掠っただけ、ですから……」
数秒の沈黙にいたたまれなくなって、エーヴァは俯く。
「んま。あたいの可愛いエーヴァにキスするなんて、腹立たしいけど羨ましい悪魔だこと!」
ショコラータを飲み干してディアーナは毒づく。けれど困惑した表情で頬をほんのり赤らめているエーヴァを見てくすりと笑う。
もうすぐ灰の水曜日が訪れる。四旬節直前のカルネヴァーレは残すところあと数回しかない。
いままでディアーナのお守りを優先させられて表に出ることが少なかったエーヴァだって年頃の娘だ。あのキラキラした謝肉祭の夜をもっと楽しみたいに違いない。それも、気になる異性に誘われたのなら尚更だろう。
恋する乙女の表情になっているエーヴァに、ディアーナは単刀直入に言葉をかける。
「行きたいの?」
「……でも、出ない方がいいですよね?」
困ったように考え込むエーヴァを見て、彼女は意地悪そうに笑っている。
両頬が熱いのはどうしてだろう、もしかしたら赤らんでいるのかもしれない。
「あたいがそこまでエーヴァを手放さないと思っているの? 行ってきなよ。銀の瞳のお嬢さん?」
その、エーヴァを認めてくれるお嬢様の一言が、かたくなっていた心に炎を灯し、優しく、溶かしてゆく。
「謝肉祭の間だけ、ディアーナ・モチェニーゴの身代わり、頼んだよ」
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