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肆 その一

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 長い夜が明けて。
 静は堀川邸で繰り広げられた惨劇の色濃い爪痕を慄然と見つめる。

 恨めしそうに快晴の空へ白目を剥いて倒れている死体。
 あちらこちらへ身体が飛び散り形骸を残していない誰のものか判断しようもない手足。
 地面に這うのは蛇ではなくひとのものであった腸。
 四方には五臓六腑のなれの果てと血痕が点在し、その影響か庭に咲き乱れていた白い燕尾仙翁えんびせんのうの花もどす黒い血を受けて可憐さを失っている。

「……静、戦を甘くみてない?」

 遺骸を踏み分けるように庭から顔をだした禅は、昨晩と変わらず、飄々としている。

「すこし」

 生臭い。

 殺しあうとはこういうことかと、静は禅にききたそうに視線をあげる。

「これで、義経は鎌倉と訣別したと公表したようなものよ」
「義経さまが、おっさんを討つの?」

 後白河法皇が今まで出し渋っていた院宣を今日になって出したのは、彼を恐れてのことだろうと静は思っていたが。

「義経より、行家どのの方が乗り気みたいだけどね」

 源行家。口先が達者な義経の叔父。
 喋りがすぎたために頼朝の不興を買い、鎌倉にいられなくなった彼は京都で微妙な立場にいる義経を味方に天下を取ろうと画策している。
 静からしてみるといけすかない男だが、義経からしてみると血を分けた叔父、しかも亡き父を知る親しい人間ということで利用されていることも気づくことなく今日まで関係を続けている。
 あることないこと吹き込まれて法皇すら不審を抱いているというのに義経だけは彼を手放さない。
 それが禅からしてみても面白くないらしい。

「あんがい、義経に脅迫されて仕方なく頼朝追討の院宣を出したとか、あの法皇なら言いかねない」
「なにそれ」

 義経を猫かわいがりしてた法皇ですら、結局自分かわいさに彼を切り捨てるのかと静は憤慨する。

「現に、頼朝追討の院宣が出ても、義経のもとに兵は集ってきてないでしょう?」
「……それは」
「義経も、自分が乗せられていることに気づいてればいいんだけどねえ」

 禅はきっと気づいてないだろうなと笑いながら、誰のものかもわからない首を蹴り飛ばす。

 乾いた音を立てて、首は転がっていく。
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