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幕間
しおりを挟む――いっそのこと、殺してくりゃれ。
義経の前でそう懇願した平家の姫君は、すべてを擲ったような、死んだ魚のような瞳をしている。
平家を滅せよと、兄頼朝は義経に命じた。言われるがまま、片っ端から平家の人間を殺めていった。
そのなかに彼女もいた。血縁者を鏖にされ、同族の血に染まった単衣を身体にまとった、二十歳前後の女性。
美しさでいえば、白拍子の禅の方が勝るだろう。舞の神にすべてをささげ、お情けだけで義経の女になってくれた禅の方が。
けれどもなぜだろう。
戦のあとの高揚もあったのだろう。目の前にいた誇り高き死にたがりな姫君を殺さず、さらに残酷な方法で繋ぎ留めたいと思ったから。
周囲の反対をものともせず、義経は彼女を自分のモノにしようと決めた。
あれから毎日のように宛がった邸に通い、厭がる彼女を裸に剥いて、快楽を植え続けている。
拒むのならば舌を切れば良いのに、そこまで思考が至らないのか、彼女は「妾も殺せ」と喚きつづける。
「お主のような美しい女性を殺して歓ぶ趣味はない」
身体を奪い、体温を分かち合いながら快楽に酔う。死体に欲情するほど落ちぶれてはいないのだ。
義経は拒む気力を失いされるがままになっている彼女を組み敷き、灼熱の楔で突き上げていく。
この月季のような口唇がいつの日か、「生きたい」と囀るまで。
触れたら壊れてしまいそうな細い腰を鷲掴みにして、深く深く蜜壺を侵す。殺せと騒いでいた姫君にはお仕置きが必要だ。
失神する寸前まで追い込みながら、最後の最後で義経は己の肉棒を引き抜く。子種をせがんで震えていた子宮口に、熱い白濁は注がない。
生まれたままの姿でひくん、ひくんと身体を痙攣させる彼女に向けて粘ついた雪を降らす。
魔羅に貫かれて達したからか、青臭い雪を彼女は呆けた瞳で見つめている。
彼女はいつだって義経ではない誰かを見つめている。義経が殺した誰か、を。
義経が抱いた時点で姫君は処女ではなかった。男を知っている、躰だった。
恋人の名を叫びながら、一緒に死なせろと喚く彼女をなだめ、快楽の淵へ沈めた。気を失った彼女を攫い、邸に囲った。
血にまみれながらも、ともに死を選ぼうと義経に鬼気として迫る姿が美しかった。
愛する人を一途に想う姿を目の当たりにしたから、義経は彼女を殺せなかった。
自分が殺した恋人のことなど忘れてしまえと甘い言葉を耳元で囁いても、彼女は是と頷かない。絶望に囚われたまま、義経の腕のなかで亡き恋人との夢を見る。
……こんな面倒臭い女、殺してもいいでしょうに。
生き残りの平家の姫君を囲った義経を、周囲の男たちは困惑した表情で見守っている。けれども義経は殺さない。生きることを放棄していながら、死んだ恋人を探して義経との情事のなかに彼の面影を求める彼女が愛しかった。けして振り向いてくれない、義経にほんとうの名前を教えてくれない彼女が放っておけなかった。
とはいえ、自分をけして見ず、淫らに夢を見つづける姫君を抱いた後に残るのは、満足感ではなく、虚しさでもある。
ましてや幼い妻、静に問われてしまったではないか。
――義経様、愛は何処に?
何処にあるんだろうなぁ。
探しているはずなのに、見つからないで迷子になっている気がする。
数えで十四歳の正妻は見かけは子どもだが、自分よりも大人びた思考をしている。
成熟したら妻としての役目を果たすのだと必死になる姿に、胸が痛んだ。
俺の性欲のはけ口に、自らなろうとしている幼な妻。
彼女を抱くそのときが訪れるのが怖い。そう思ってしまうのは何故だろう。
多くの女性を抱いた自分が、いまさら怖がるなんて不思議なことだ。
俺を包み込む禅や、ひとときの快楽に酔う美しい白拍子たち、死んだ恋人を想いながら抱かれる敵方の姫君。
静はどんな風に自分と褥を共にするのだろう。いままで抱いてきた女性たちのように想像できないから、恐れているのかもしれない。
勢いで触れた柔らかい口唇。彼女のきょとん、とした表情を思い出し、義経は微笑する。
――そう遠くない夜に、あいつを抱くのだろう。
愛が何処にあるかなど、深く考えることもしないまま……
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