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弐 その七

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 率直な物言いに、義経は驚き、幼い妻の表情をうかがう。本気だ。

「傷つけるかもしれないぞ」

 頼朝との関係が悪化の一途を辿っているいま、静の立場が曖昧なものになっていると義経は知っているから、あえて突き放すような言い方をする。

「それにいまなら、河越庄に戻れる」
「逃げ帰れとおっしゃるのですか」

「違う」

 押し殺した低い声は是と言わず、視線は静の落ち着いた表情を前に恨めしそうに左右する。

「……義経さまは、わたしの覚悟をお聞きになりたいのね」

 覚悟なら。

「とっくにできてるし」

 逃げることなど。

「必要ありません」

 静の凍りついた声が、義経の耳朶を震わす。

 言葉をひとつひとつ区切り、決意するように吐き出す妻の前で、義経は瞠目する。

「わたしは、あなたの、妻となるもの。これがたとえ政略結婚であろうが、鎌倉の覇者による陰謀だろうが、かまわない」

 なぜなら彼方は。

「……なんて、啖呵を切れるほどのこと、でもないけど」

 ふぅと息をつく静。さっきとはひとが変わったような彼女の穏やかな表情を、義経は狐につままれたようにじっと見入る。

 そのときには魅入られていた。

「運命を共にする準備など、とっくにできてる。身体がそれに、追いつけないだけ。もどかしくて、立派に嫉妬のひとつもできない。どうせ、わたしのような未成熟な女は、彼方にとってお荷物でしかないのでしょう?」

 彼方が邪魔だというならば、河越庄に戻ることを考えてもいい。けれどそうしたらきっと。

「わたしは彼方の敵になる」

 ならざるおえない。

 鎌倉の勢力下へ戻れば、義経を警戒し彼を退けようとする頼朝が、静を利用する。

 いまも利用されて義経の妻におさまっているけれど、それは、静自身が望んだ結果でもある。

 黙りこんでいる義経に、淡々と告げる静。

「鎌倉と敵対することを選ぶのなら、わたしもそれに従うまで」

 その応えは、きつい抱擁とやさしい接吻だった――……
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