【R18】ふたりしずか another

ささゆき細雪

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弐 その三

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 義経が平家を滅ぼした報せを、静は無表情で聞いていた。

「で?」

 その隣で、禅は困ったように肩を竦める。

「女の方を連れて帰られるそうよ。平家の生き残りの姫君らしいけど」

「それなら都じゅうで噂になってるよね? あのおひとよしの義経さまなら敵方の女人を殺められないのも仕方ないと思うけど」

 敵対するものは容赦なく倒していくくせに、女子どもには弱い、それが義経だ。

 それだけならいいんだけどねぇと禅は苦笑する。

「どうやら北の方になさるつもりよ」

「北の方って……じゃあわたしはどうなるの?」

 それより平家の姫君を勝手に北の方に迎えていいのだろうか。義経は。兄が手配した正妻がいるというのに彼に配慮することなどまったく考えず、そのときの気分でものごとを決めつけてしまう義経は。

「……何考えてるんだか」

 呆れてものが言えないわと禅が溜め息をつく横で、静は思考をめぐらせる。

 ――義経さまは頼朝のおっさんへちょっとした意趣返しでもしようとしてるのか、それともたいして何も考えないで姫君がかわいそうだったから連れていくことにしたのか、考えれば後者でしかないかな、だってあの義経さまだもの。

 義経が姫君を連れ帰るのは事実なのだろう。だとすれば思い悩んでも仕方ない。笑顔でおかえりと言ってあげよう。厭味にしかならないかもしれないけれど。

 すっきりした顔の静を禅が不審そうに見つめる。

「怒らないんだ?」

「怒る対象が目の前にいないし、今から怒っていたら義経さまが戻られたときには怒りが萎むと思うから」

 さばさばした口調の静を見て、実際のところは気に病んでいるのだなと禅は理解する。

「そう」

 これ以上彼女を刺激しても仕方がない。禅は庭へ下りて、黄楊の根元で花を咲かせ始めた都忘れを一輪摘んで、青空に掲げる。

 太陽のひかりに紫色のちいさな花をかざし、禅は無表情の静の隣にふたたび腰掛ける。

 馴れた手つきで静の髪を手にとり、禅は摘み取ったばかりの都忘れを結びつける。

「女を連れてこようがなんだろうが、義経が無事に帰ってくるんだから綺麗にして待っててあげなきゃ。それが妻の宿命よ」

「そういうもん?」

 首を傾げながらも、禅に言われるがまま静はちいさな紫の花を髪に飾る。

 すこしだけ、気分が向上する。
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