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第三部 溺愛狂詩 大正十二年神無月〜 《 未来 》
そして……喜びの初夜 03
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大正十三年卯月。帝都。
西ヶ原の岩波別邸にて祝言を挙げた音寧は、主寝室の扉の前で立ち尽くしていた。
先ほどまで着ていた黒振袖を脱ぎ、身体を清められた後、いまの季節にぴったりの桜色の夜着を着せられ、送り出されたのだ。
すでに五代目有弦を襲名した資も、楽な恰好をして、この部屋のなかで待っているという。
昨年の秋に求婚されて以来、口づけからはじまった愛の行為も、ついに身体を重ねる段階に入るのだ。未来では何度も彼に抱かれているというのに、いまここにいる音寧は、車のなかでされた愛撫以上のことをされるのだと思うと、緊張で動けなくなってしまう。
――ど、どうしよう。前みたいに薬酒で緊張を緩めてもらえないのでしょうか……
都合の悪いときだけかつての状況に縋りたくなる音寧を嘲笑うかのように、扉がカチャリと音を立てながら開いていく。
「何をしているんだい、おとね?」
「た……有弦さま」
「資でも構わないよ。俺の戸籍は今日から岩波有弦だけど、いままでの自分の名前も忘れたくないからね」
――むしろ、貴女だけに「資」と呼ばせたいな。
そう囁いて、部屋着姿の資は扉の前で凍りついていた音寧の身体をひょいと抱き上げる。
「……あっ」
「おいで。貴女のためにこの部屋を用意したんだ」
資に抱きかかえられたまま案内された音寧は、はやる心臓の鼓動に戸惑って夜着の胸元を押さえつけながら、昨年の夏のひとときを過ごした迎賓館の客室を模した主寝室を見て、頬を赤らめる。広さはひとまわり小さいが、それでも夫婦がつかう寝室としてはおおきく、レエスの緞帳が窓辺を飾り、中央には天蓋つきの寝台と猫脚の文机が置かれている。完全に同じ家具ではないし、衣裳部屋や浴室が繋がっているわけではないけれど。あのときとほとんど同じ配置に、音寧はぞくりとする。
「……はじめて見たのに、なんだか懐かしい感じがします。これ、ぜんぶ資さまが?」
「ああ。驚いてくれて嬉しいよ」
寝台の上へそうっと横たえられ、音寧は恥ずかしそうに資を見つめる。
「あ、あの」
「なんだい?」
「きょ、今日は……薬酒は?」
「そんなもの、感じやすい貴女には不要だよ」
「で、でも……ンッ」
「俺より薬がイイなんて言わないで。今夜は俺が、おとねを大切に抱くから……桜の精霊みたいな夜着だね、よく似合っているよ」
資の口づけに翻弄されて、いつしか音寧の緊張もほぐれていく。
肩にかかっていた夜着の紐をそうっとほどきながら、資は音寧の胸元を外気に晒す。
「はぅ」
「いまの音寧は、男を知らないんだよな……ぜんぶ、俺のものにするから」
「あっ、お乳、出ないのにっ……」
「美味しいよ。おとねのここ。こうしてあげると悦んでくれたものね。覚えてる? 俺がひと舐めしただけでほら、桜色のてっぺんが物欲しそうに色づくんだよ」
「あんっ、恥ずかしい、ですっ……んっ」
まろびでてきた乳房を揉まれながら音寧の両方の乳首を交互に甘噛みし、吸って、舐めてを丹念に繰り返す資に、音寧は快感の兆しを自覚していく。
未来の自分はこうして何度も何度も彼に抱かれて、彼の身体に溺れさせられたのだ。何も知らない無垢な身体を自分だけの色に染め上げて。
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