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第三部 溺愛狂詩 大正十二年神無月〜 《 未来 》
時翔た花嫁に融け合う求婚 05
しおりを挟む鏡を見つめていた音寧は、どこかすっきりした表情で、資の方へ向き直った。ずっと不思議だった運命の絡繰りに気づけたのだろう。そして、時を翔た彼女が体験したことを融合させたのだ。青みがかった瞳が資を射る。
「――資……有弦、さま」
「おとね」
「わたしの、未来の、旦那様……わざわざとねを迎えに来てくださったのですか? あと一年はかかると思っていたのに」
「大正十三年の神無月だっけ? 悪いが、俺はもう待てなかったんだ。いますぐ貴女を、捕まえたくて」
必ず逢えると言っていた彼女が、もう待てないと乗り込んできた資を呆れた顔で見つめている。十八歳の音寧が未来から来ていたもうひとりの自分の顛末を受け入れてくれたからよかったものの、鏡がなかったらきっと、音寧は何も知らない状態で資の花嫁として帝都に連れて行かれることになっていただろう。無茶しますね、とくすくす笑って、音寧はトキワタリの鏡を放り投げる。パリン、と小気味よい音が静かな夜の空気を震わせ、鏡の破片が漆黒の空に吸い込まれていく。
「!?」
「じゃあ、もうこの鏡は必要ありませんね。これ以上、厄介な歴史を繰り返さないために時宮の蔵に封じていたのに……封じられないのなら、壊すしかないです。だってわたしも、あやねえさまも、そして資さ……有弦さまも、新しい未来へ進もうとしているのですから」
そう言いながら、音寧は資に抱きつく。火照った彼の身体が、さらに熱を帯びたかのように感じられる。驚く資を更に驚かせようと、音寧は顔を近づけて。
「ずっと、ずーっと、おとねはお慕いしております」
現在、過去、未来、どの世界線にいても、異なる未来で過ごしていたとしても、音寧は有弦に何度でも恋をしている。
目の前にいる資が、絶えず音寧を自分の嫁だと呼んで、恋い求めるように。
「はじめからさいごまで、彼方だけ」
彼からの応えは、濃厚な接吻だった――……
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