時翔る嫁 双子令嬢と身代わりの花婿

第二部 初恋輪舞 大正十二年文月～長月《夏》

初恋の奪還と紫の夢見鳥 03

「だけど結局、彼方に悪魔に穢されたおとねの恥ずかしい姿を見られてしまいました」
「おとね」
「――いやだったのに、拒めなくて、抗えなくて、どんどん痛いのに気持ちいいことをされて……有弦さまに好き勝手弄られているんだって心のなかで勝手に解釈して、されるがままになっていた……わたしは、淫らで、きたない」
「そんなことない……！」

　引っ掻き傷のような悪魔の爪痕が、白い肌を嘲笑うように至るところに残っている。遠目で見ればそれほど目立たない赤い線も、悪魔の刻印とおぼしき紫の蝶を抑え込む蜘蛛の糸のようだ。
　けれど、それでも自分を汚いと卑下する音寧が愛しくて、資は彼女の口を己の唇で素早く塞ぐ。

「ンっ……」
「きたなくなんか、ないよ。おとねは、俺たちが来るまで悪魔をその場に留めていてくれた。立派に囮の役をやり遂げたんだ……あとは、綾音嬢たちがどうにかしてくれる。その胸の刻印だって、破魔のちからが使えるのなら消せるはずだ。だから自分を貶めるな。おとねは綺麗だよ」
「資、さま……あっ」

　口づけられて、音寧はうっとりした表情で資を見上げる。接吻されている間に彼の両の手のひらが音寧の乳房をゆるゆると揉みはじめていた。悪魔に無理矢理揉まれたときとは違う、繊細な手つき……
　やさしくふれられて、もどかしい気持ちになりながら、音寧は涙を浮かべながら甘い声をあげる。

「きたないのは俺の方だ。傷ついた貴女を癒したいのに、俺の手で悪魔より淫らに啼かせたいと思ってしまった」
「はぁ……ん」
「泣き顔に欲情するなんて最低だ。悪魔に薬を盛られてあんな風に凌辱されて……可哀想なのに、俺はその光景に興奮してしまった」
「資さま……？」
「俺が貴女にとっての悪魔なのかもしれない。一度手に入れたら二度と手放せない極上の獲物。そう、こんな風に胸元に刻印をつけたくなるくらい……」

　唇から音寧の胸元へ顔を動かした資は、悪魔がつけた紫の蝶の刻印を挑発するかのように、周囲に接吻の花を咲かせていく。
　胸元をきつく吸われて赤い痕を増やされた音寧は、身体をのけぞらせながら喘鳴をあげる。

「気持ちいいのか……？　ふれてもいないのに尖端がこんなに」
「言わない……で」

　泣きそうな顔で資の髪を撫でる音寧を見て、資は照れくさそうに唇を乳首に寄せる。
　魔薬によって赤黒くなっていたそこは、払魔によって桜色へと戻っている。けれども資が舐めはじめれば、艶やかな赤へと色を変えていく。

「はぅんっ」
「やさしくしたいのに……そんな風に乱れられたら、我慢できない」
「いい、の」

　資の舌先で乳首を転がされて、身体が悦んでいる。気持ちいい、もっと、と音寧の息が弾む。

「我慢、しないで……悪魔にされたときよりも気持ちいいこと、して？」
「莫迦……煽るなよ……」
「彼方が清めてくれる、消毒してくれると思ったから耐えられたの。いつだって彼方がわたしを激しく求めてくれたから……」
「じゃあ、悪魔とは最後まで」
「してない、です」