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第二部 初恋輪舞 大正十二年文月~長月《夏》
初恋の奪還と紫の夢見鳥 02
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* * *
「アァ……もぅ、薬の効果など、ありませ、んっ……からっ!」
「だめだよ。魔薬が体内に残ったままだと、魔を孕ませてしまう。貴女の子宮が孕むのは俺の子だけでいい」
「いけません、そのようなこと――ひゃ、んっ」
「俺は本気だよ。決めた。いつか、おとねに俺の子を生んでもらう……貴女は俺の大切な、運命だから」
「ンッ……!?」
浴槽にたっぷりと張られた湯のなかで、音寧は資に丹念に清められていた。
彼のはなしだと、自分は悪魔に連れ去られ、身体を弄ばれてしまったのだと。
魔薬という媚薬効果のある液体を浴びたから、ぬるぬるして、身体が熱いのだろう、と。
だから自分が禊を行い清めるのだと、資に身体をひらかれ、あたまから足の先まで彼の手で洗われた。
資が禊と称して音寧にふれるのは三度目だが、この禊は正真正銘、魔を払うために必要な大切な儀式になる。それゆえ資は淫魔に魅入られたと誤解して彼女に禊を施したときよりも時間をかけてほぐしていくように音寧の身体に接していた。時折、儀式とは関係のない甘い口づけで安心感を与えながら。
魔薬のぬめりを洗い流した資は、仕上げだとばかりに払魔の手袋で音寧の裸体を撫でる。魔薬の効果は無効化されたと言っていたが、媚薬の効能は残っているらしく、音寧は彼の手袋ごしの指で秘芽を捏ねられながら膣内をかき回されて呆気なく達してしまった。湯のなかで肢体を投げ出した彼女を資が抱きとめれば、ぱしゃんと飛沫が飛ぶ。
「ぁあ……はぁ、あぁ……たすくさまっ!」
眼裏に煌めく星を音寧が受け止めて、ゆっくりと意識を起こしていく。
抱きとめてくれた腕を思い出す。ここにいるのはまだ、有弦ではないことを。
互いに顔を見合わせ、吸い寄せられるように唇を重ね合ったふたりは、唇をつきあわせた状態のまま、言葉を交わす。
「――おとね。俺がわかるな?」
「……はい」
ぶわぁっと顔を真っ赤にして、音寧が資の榛色の双眸を見つめている。生気を取り戻した彼女は禊でのぼせているものの、資をしっかりと認識していた。
魔薬に侵された状態で悪魔に襲われていたときは死んだ魚のような瞳をしていた彼女が、ようやく青みがかった黒い瞳で自分を見てくれた。そのことに資は安堵する。
けれど、彼女は資のように素直に喜びを見せてくれなかった。瞳を伏せて、申し訳なさそうにぽつりと零す。
「――ごめんなさい、資さま」
「おとね?」
「わたし、悪魔に穢されて、しまいました……こんな、身体じゃ、もう」
「――おとね」
湯船に沈んだ状態で、瞳を潤ませて指差したのは、左胸に刻まれた紫色の夢見鳥。
悪魔の鋭い爪が掠ったのか、心臓の周囲だけでなく、双胸全体にもうっすらと赤い線が浮かび上がっている。肌を撫で回され乳房を掴まれ揉みしだかれた際に傷ついたのだろう。禊のときにはまじまじと見つめることが叶わなかった彼女の痛々しい姿に気づかされた資は、慌てて音寧の身体を抱き上げ、お湯が滴り落ちるのを無視して寝台へと運んでいく。
「資さま?」
「謝らないといけないのは俺の方だ……貴女を守るとあれだけ言っておきながら」
「いいえ。突き放したのはおとねの方です、わたしがこれ以上、資さまを苦しめたくなかったの」
だから資が悔やむ必要はないのだと、音寧は首を横に振る。寝台の上へ横たえられた音寧は、まじまじと胸元を凝視する資の瞳に情欲を感じて、無意識に下腹部を疼かせて、瞳を曇らせる。
「アァ……もぅ、薬の効果など、ありませ、んっ……からっ!」
「だめだよ。魔薬が体内に残ったままだと、魔を孕ませてしまう。貴女の子宮が孕むのは俺の子だけでいい」
「いけません、そのようなこと――ひゃ、んっ」
「俺は本気だよ。決めた。いつか、おとねに俺の子を生んでもらう……貴女は俺の大切な、運命だから」
「ンッ……!?」
浴槽にたっぷりと張られた湯のなかで、音寧は資に丹念に清められていた。
彼のはなしだと、自分は悪魔に連れ去られ、身体を弄ばれてしまったのだと。
魔薬という媚薬効果のある液体を浴びたから、ぬるぬるして、身体が熱いのだろう、と。
だから自分が禊を行い清めるのだと、資に身体をひらかれ、あたまから足の先まで彼の手で洗われた。
資が禊と称して音寧にふれるのは三度目だが、この禊は正真正銘、魔を払うために必要な大切な儀式になる。それゆえ資は淫魔に魅入られたと誤解して彼女に禊を施したときよりも時間をかけてほぐしていくように音寧の身体に接していた。時折、儀式とは関係のない甘い口づけで安心感を与えながら。
魔薬のぬめりを洗い流した資は、仕上げだとばかりに払魔の手袋で音寧の裸体を撫でる。魔薬の効果は無効化されたと言っていたが、媚薬の効能は残っているらしく、音寧は彼の手袋ごしの指で秘芽を捏ねられながら膣内をかき回されて呆気なく達してしまった。湯のなかで肢体を投げ出した彼女を資が抱きとめれば、ぱしゃんと飛沫が飛ぶ。
「ぁあ……はぁ、あぁ……たすくさまっ!」
眼裏に煌めく星を音寧が受け止めて、ゆっくりと意識を起こしていく。
抱きとめてくれた腕を思い出す。ここにいるのはまだ、有弦ではないことを。
互いに顔を見合わせ、吸い寄せられるように唇を重ね合ったふたりは、唇をつきあわせた状態のまま、言葉を交わす。
「――おとね。俺がわかるな?」
「……はい」
ぶわぁっと顔を真っ赤にして、音寧が資の榛色の双眸を見つめている。生気を取り戻した彼女は禊でのぼせているものの、資をしっかりと認識していた。
魔薬に侵された状態で悪魔に襲われていたときは死んだ魚のような瞳をしていた彼女が、ようやく青みがかった黒い瞳で自分を見てくれた。そのことに資は安堵する。
けれど、彼女は資のように素直に喜びを見せてくれなかった。瞳を伏せて、申し訳なさそうにぽつりと零す。
「――ごめんなさい、資さま」
「おとね?」
「わたし、悪魔に穢されて、しまいました……こんな、身体じゃ、もう」
「――おとね」
湯船に沈んだ状態で、瞳を潤ませて指差したのは、左胸に刻まれた紫色の夢見鳥。
悪魔の鋭い爪が掠ったのか、心臓の周囲だけでなく、双胸全体にもうっすらと赤い線が浮かび上がっている。肌を撫で回され乳房を掴まれ揉みしだかれた際に傷ついたのだろう。禊のときにはまじまじと見つめることが叶わなかった彼女の痛々しい姿に気づかされた資は、慌てて音寧の身体を抱き上げ、お湯が滴り落ちるのを無視して寝台へと運んでいく。
「資さま?」
「謝らないといけないのは俺の方だ……貴女を守るとあれだけ言っておきながら」
「いいえ。突き放したのはおとねの方です、わたしがこれ以上、資さまを苦しめたくなかったの」
だから資が悔やむ必要はないのだと、音寧は首を横に振る。寝台の上へ横たえられた音寧は、まじまじと胸元を凝視する資の瞳に情欲を感じて、無意識に下腹部を疼かせて、瞳を曇らせる。
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