121 / 191
第二部 初恋輪舞 大正十二年文月~長月《夏》
歌劇場の控室に偽りの花嫁 03
しおりを挟む――ふだんと同じ資さまなのに、どこか別人みたい。彼は何を焦っているの?
「姫は葉月のおわりまで帝都にいると言っていたが……綾音嬢の結納が終わったら、お役御免となって、帝都を去ることになると、傑が」
「え……」
「そんなことはさせない。貴女は俺の妻となる運命の女性だ。黙って姿を消そうとするなんて許せない」
傑が何を思って資にそのようなことを言ったのか理解できない。たぶん、洋食屋で男ふたりが向き合いながら食事をしていたときにその話題が出たのだろう。そしてその言葉を真に受けた資は焦って、音寧に確認することなく行動に移してしまったのだ。
だから、傑の協力を仰いで観月館を貸りた彼は、一晩かけて音寧を説得するため、趣向を変えて彼女に迫っているのだーー貴女を妻にして、この先も共に生きたい、と。
「資さま、おとねは逃げるつもりなど」
「おとね?」
「……っ違うんです、わ、わたしは有弦さまの妻、だから……」
失言を繰り返して、音寧は言葉を濁す。資の口から出た「おとね?」という呼びかけが、未来で待つ有弦の姿に重なり、ぞくりとする。
けれども自分が有弦の妻だと口にしたことで、資の反応はさらに頑ななものへと変質していた。
「やはり傑と綾音嬢が結納するまで軍に匿ってもらうという契約は、醜聞を避けるための親父の依頼だったんだな? そして息子の結納の儀が終わったら貴女の存在を何事もなかったかのように手元に呼び戻し、俺が知らない場所に隠して、その身体に溺れるんだ……可哀想な姫」
「誤解です、資さま」
「貴女が戻る場所は親父のところではない。俺のところだ」
「っ!」
違うと首を振る音寧の顎に手をやり、噛みつくような接吻をする資。
音寧が有弦の名を口にしたことで、火に油を注がれた資は怒りを露わにして、花嫁衣裳の彼女をきつく抱き寄せる。
「んっ……」
「姫、俺の妻になれ。有弦のことなど忘れてしまえ」
「資さま……」
「言っただろう? 俺は貴女の想い人から貴女を寝取ると。もう、俺は待てない」
「ぁん、んんっ」
溺れるような口づけを繰り返され、身動きのとれない音寧は喘鳴をあげながら彼に絡めとられていく。スカートのなかへ彼の手が入り込んだことにも気づかないまま、彼が差し込んできた舌先に翻弄され、ぐずぐずに脳髄をかき回されるような錯覚に陥る。つま先立ちをした状態で、接吻を受けていくうちに腰が支えきれなくなった音寧が柱にもたれようとすれば、彼の腕に制止され、そのまま崩されそうになる。
「花嫁衣裳の貴女はやはり美しいな……壊してしまうのが惜しいくらいだ」
「壊す……? な、何を」
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
麗しのシークさまに執愛されてます
こいなだ陽日
恋愛
小さな村で調薬師として働くティシア。ある日、母が病気になり、高額な薬草を手に入れるため、王都の娼館で働くことにした。けれど、処女であることを理由に雇ってもらえず、ティシアは困ってしまう。そのとき思い出したのは、『抱かれた女性に幸運が訪れる』という噂がある男のこと。初体験をいい思い出にしたいと考えたティシアは彼のもとを訪れ、事情を話して抱いてもらった。優しく抱いてくれた彼に惹かれるものの、目的は果たしたのだからと別れるティシア。しかし、翌日、男は彼女に会いに娼館までやってきた。そのうえ、ティシアを専属娼婦に指名し、独占してきて……
【R18】幼馴染な陛下と、甘々な毎日になりました💕
月極まろん
恋愛
幼なじみの陛下に、気持ちだけでも伝えたくて。いい思い出にしたくて告白したのに、執務室のソファに座らせられて、なぜかこんなえっちな日々になりました。
【完結】お義父様と義弟の溺愛が凄すぎる件
百合蝶
恋愛
お母様の再婚でロバーニ・サクチュアリ伯爵の義娘になったアリサ(8歳)。
そこには2歳年下のアレク(6歳)がいた。
いつもツンツンしていて、愛想が悪いが(実話・・・アリサをーーー。)
それに引き替え、ロバーニ義父様はとても、いや異常にアリサに構いたがる!
いいんだけど触りすぎ。
お母様も呆れからの憎しみも・・・
溺愛義父様とツンツンアレクに愛されるアリサ。
デビュタントからアリサを気になる、アイザック殿下が現れーーーーー。
アリサはの気持ちは・・・。
純潔の寵姫と傀儡の騎士
四葉 翠花
恋愛
侯爵家の養女であるステファニアは、国王の寵愛を一身に受ける第一寵姫でありながら、未だ男を知らない乙女のままだった。
世継ぎの王子を授かれば正妃になれると、他の寵姫たちや養家の思惑が絡み合う中、不能の国王にかわってステファニアの寝台に送り込まれたのは、かつて想いを寄せた初恋の相手だった。
[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。
ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい
えーー!!
転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!!
ここって、もしかしたら???
18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界
私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの???
カトリーヌって•••、あの、淫乱の•••
マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!!
私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い••••
異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず!
だって[ラノベ]ではそれがお約束!
彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる!
カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。
果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか?
ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか?
そして、彼氏の行方は•••
攻略対象別 オムニバスエロです。
完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。
(攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)
媚薬を飲まされたので、好きな人の部屋に行きました。
入海月子
恋愛
女騎士エリカは同僚のダンケルトのことが好きなのに素直になれない。あるとき、媚薬を飲まされて襲われそうになったエリカは返り討ちにして、ダンケルトの部屋に逃げ込んだ。二人は──。
悪役令嬢、お城の雑用係として懲罰中~一夜の過ちのせいで仮面の騎士団長様に溺愛されるなんて想定外です~
束原ミヤコ
恋愛
ルティエラ・エヴァートン公爵令嬢は王太子アルヴァロの婚約者であったが、王太子が聖女クラリッサと真実の愛をみつけたために、婚約破棄されてしまう。
ルティエラの取り巻きたちがクラリッサにした嫌がらせは全てルティエラの指示とれさた。
懲罰のために懲罰局に所属し、五年間無給で城の雑用係をすることを言い渡される。
半年後、休暇をもらったルティエラは、初めて酒場で酒を飲んだ。
翌朝目覚めると、見知らぬ部屋で知らない男と全裸で寝ていた。
仕事があるため部屋から抜け出したルティエラは、二度とその男には会わないだろうと思っていた。
それから数日後、ルティエラに命令がくだる。
常に仮面をつけて生活している謎多き騎士団長レオンハルト・ユースティスの、専属秘書になれという──。
とある理由から仮面をつけている女が苦手な騎士団長と、冤罪によって懲罰中だけれど割と元気に働いている公爵令嬢の話です。
大事な姫様の性教育のために、姫様の御前で殿方と実演することになってしまいました。
水鏡あかり
恋愛
姫様に「あの人との初夜で粗相をしてしまうのが不安だから、貴女のを見せて」とお願いされた、姫様至上主義の侍女・真砂《まさご》。自分の拙い閨の経験では参考にならないと思いつつ、大事な姫様に懇願されて、引き受けることに。
真砂には気になる相手・檜佐木《ひさぎ》がいたものの、過去に一度、檜佐木の誘いを断ってしまっていたため、いまさら言えず、姫様の提案で、相手役は姫の夫である若様に選んでいただくことになる。
しかし、実演の当夜に閨に現れたのは、檜佐木で。どうも怒っているようなのだがーー。
主君至上主義な従者同士の恋愛が大好きなので書いてみました! ちょっと言葉責めもあるかも。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる