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第二部 初恋輪舞 大正十二年文月~長月《夏》
双子の姉の二度目の企み 04
しおりを挟む「逢引のことよ? 未来の有弦さまとしたこと……ないわよね、ずっと西ヶ原の邸に監禁同然だったみたいだし」
「ないです、そ、そんなこと許されるんですか!?」
恋人同士が外歩きをすることだと説明された音寧は目を輝かせながら綾音に迫る。資さまと浅草観光してもいいの? 迎賓館でおとなしくしていないといけないんじゃないの? と目で訴える双子の妹をやさしく宥め、綾音は声を張り上げる。
「許すも許さないもないでしょ、いちおう姫の存在は軍に匿われているって扱いにはなっているけれど、結局のところ時宮の家と岩波山、あと日本橋本町の関係者に所在を明かさなければ問題ないんだから。それに浅草なら魔物が出没しやすい地域からも離れているから護衛もしやすいんじゃないかな」
「魔物が出没しやすい地域なんてものがあるのですか?」
「上野、浅草界隈は江戸時代からの結界がある影響で魔物の被害が他の場所よりも少ないの。同じ繁華街でも銀座や日本橋より魔物による犯罪に合う確率が低いってのは資くんも知っているはず……だから」
そう言って寝台からひょいと降り立った綾音は扉を勢いよく開けて無表情で護衛をつづけている仁王立ちの資に声をかける。
「資くん。姫が退屈しているわよ! もう血も止まったことだし気晴らしに浅草にでも連れ出してあげなさいよ」
「……なんですか急に。浅草がどうかしましたか?」
突然綾音に捲し立てられた資は、きょとんとした表情で濃紺の夜着を纏った音寧の方へ顔を向ける。血が止まってると大声で言われた音寧は恥ずかしくなって顔を真っ赤にして思わず俯いてしまう。まるで自分の月経は終わっているから抱いても問題ないと言っているようなものだ。
けれども資はそこではなく、「浅草」という言葉に気を取られたらしい。
「どうもしないけど。これから傑が来るから、姫と資くんも一緒に外でご飯を食べに出かけませんか、って」
「外……それで浅草ですか」
「姫を安全に連れ出せるわよ。ね」
音寧の方へ相槌を求めた綾音は「言ってごらんなさい」と視線で合図する。
自分よりも音寧が資におねだりしたほうが効果的だと計算してのことだろう。
「資さま……わたし、浅草でえと、してみたい、です」
「でえと……俺と、姫が?」
「はい……だめ、でしょうか?」
「…………だめじゃない……だめなものか! よし、姫、いまから準備をしよう。傑が来るまでに……!」
「あの、資さま?」
でえと、という単語に打ちのめされて勝手に衣装部屋に向かう資を前に、綾音は勝ち誇った顔を見せる。あれでも舞い上がっているらしい。早く衣装部屋に来るよう催促された音寧は慌てて彼の背中を追いかける。「先に階下で待っていてください!」と綾音に言い残して。
それを満足そうに見送った綾音は「ね、言ったでしょう?」とひとりごちてから、傑を待つために一足先に玄関へ向かうのだった。
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