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第二部 初恋輪舞 大正十二年文月~長月《夏》

次の段階を求める愛撫 01

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 ゆっくりと身体を抱き寄せ、唇を重ねてくる女性の真似をするように、資はぎこちなく唇を彼女のそれへ近づけていく。あの日から毎日、口づけの練習と称して資は朝に夜に、彼女が気持ちよくなれるよう角度を変えたり歯列の裏まで舌を這わせてみたり、涙ぐましい努力で音寧を翻弄させている。その成果は、一週間も経過しないうちに現れはじめていた。

「……んっ、資さま」
「姫。今宵の口づけはいかがかな? 舌を噛むことも減ってきたと思うのだが」
「そ、そうですね……」

 彼女が口にした有弦という名に怒りを覚え、突発的に口を塞いだのが資にとってのはじめての口づけだった。恋しいひとは恥ずかしがることも嫌がることもせず、ただ資がしたいように受け止めてくれた。まさかそのまま舌を入れられるとは思いもせず。
 ちいさな彼女の舌が自分の口腔に入ってきたときの驚きとときめきに、資は目眩を起こしそうになった。呼吸をするのも忘れていたから「鼻で息をするのですよ」と諭されてしまった。女性と経験のない資は彼女に従うがまま、はじめての口づけをした。そしてその柔らかさと甘さに魅了された。その先にさらなる快楽が待ち受けていることを忘れてしまうくらいに。
 だからはじめての口づけに浮かれた旨を資は素直に口にした。
 その応えは、まさかの腹の虫の音だったけれど。

「んふっ、た、資さま」
「姫は啄むような接吻もすきだよな……っ」

 身も心も父親から寝取って自分のものにするためには未熟な自分が成長する必要がある。はじめての接吻のあまりの気持ちよさに、そこから先のことが考えられなくなってしまった資は、自分が発したお腹の音に呆気にとられていた彼女を見て、まずは口づけからはじめたいと助け舟を出した。

「息が……っ」
「鼻で息をするように教えてくれたのは姫だったじゃないか」
「た、資さまの口づけが荒々しいからです……っ!」

 まだ口づけの練習をはじめたばかりだと綾音に愚痴ったのはほんの数日前だというのに。いつしか音寧は資の口づけに惑わされるようになっていた。
 はじめのうちは柔らかい部分をそうっと重ねるだけで満足していたのに、日を重ねるごとに舌を器用に這わせ、音寧が気持ちよくなれるよう口腔内を蹂躙するようになる。口づけを甘く見すぎていた音寧は部屋のいたる場所で資からの攻撃を受ける羽目になり、導く側の自分が一方的に口づけられることも多くなっていた。

 朝の挨拶代わりの接吻はまだいい。
 問題は夜、音寧が眠りにつく前に行われる身体の芯から蕩けさせるような長くて深い口づけだ。食堂で食事をいただき、浴室で身体を清めた後に夜着に着替え、寝台に向かうと彼が律儀に跪いて待っているのだ。
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