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第二部 初恋輪舞 大正十二年文月~長月《夏》

淫魔に魅入られた姫君 02

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   * * *


 国賓が宿泊する特別な部屋というだけあって、付属する浴室のつくりも豪華だった。白と藍色のタイルが張り巡らされた和洋折衷な浴室の中央には金色の縁どりが印象的な楕円形の浴槽があり、湯船には真紅の薔薇の花びらが浮かべられている。
 噎せ返りそうな甘い花の香りが漂う浴室に連れ込まれ、音寧は弱々しく抵抗する。

「だ、大丈夫ですから……」
「恥ずかしがる必要などない、俺はおおきな石だとでも思って」
「石は喋りませんっ」

 敷布にくるまれた状態で横抱きにされたかと思えば、非現実的なお風呂に連れ込まれ、軍服を着たままの資にされるがまま、音寧はたっぷりのお湯が張られた湯船のなかへ追いやられていた。
 軍の規律に則って禊をする必要があるからと、必死に掴んでいた敷布も剥ぎ取られ、薔薇の花びらが浮かぶ透明な湯のなかに音寧の白い裸体は沈められてしまう。塩分濃度が高い湯なのか、すこし身動ぎしただけでも身体がぷかりと浮かぶため、勃ちあがったままの赤い乳首や薄い和毛が湯船から顔を出して、その都度音寧は羞恥に頬を染める。
 すでに自慰で絶頂した姿を見られているとはいえ、こんな風に裸を見られるのはやはり恥ずかしい。たとえ未来の彼にもっと恥ずかしいことをされているとはいえ、今目の前にいる彼は音寧のことを知らないのだから。

「……資さま?」
「淫魔に犯された場所を確認したい。浴槽の縁に頭を乗せて」
「こう、ですか?」
「そのまま身体を湯船に浮かべさせるように、ちからを抜いて……うん、このくらいかな」

 軍服を脱ぐこともせず、お湯で袖が濡れても嫌な顔ひとつしない資は湯船のなかで音寧を楽な姿勢にさせると、ポケットから白手袋を取り出し、両の手に装着し、彼女に説明する。

「この手袋には払魔の効果があるんだ。姫が魔に犯された場所を清めるために使う」
「え……」

 てっきり湯船に浸かるだけで清められたものだと思っていた音寧は、彼の言葉に身体を竦ませる。つまり、直接ふれることはないけれど手袋越しに音寧が自慰をした場所をさわるということ、で……

「さわるの、ですか」
「? さわらなければ禊ができないではないか」

 何を言っているんだ、と不思議そうな顔をする資に、音寧は顔を真っ赤にする。軍の規律に則って行う禊だと言い張る彼は、音寧の裸を目の前にしているというのに真面目な表情を保ったままだ。あくまでも任務の一環として音寧に禊を行うということなのだろう。
 たとえ自分が淫魔に犯されてなどいないと訴えたところで、その理由を彼に伝えることはできないのだ。ここは素直に彼の言うことに従うしかないと、音寧は瞳を閉じて渋々頷く。


「わかりました……さわって、確かめてください」
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