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第二部 初恋輪舞 大正十二年文月~長月《夏》
露見する秘蜜 03
しおりを挟む意地悪な有弦の質問に、身体が震える。まだ、服を自分で脱いだだけなのに。この間のように有弦に導いてもらいたいのに。彼は音寧にすべてを委ねて、自慰をさせようとしている。言葉にして、自分の状態を彼に教えない限り、音寧と有弦は鏡越しに愛を語ることすらできないのだ。恥ずかしくて泣きたい気持ちと、それでも彼の顔を見たいという気持ちを葛藤させながら、音寧は応える。
「おとねは……夜着の金具をぜんぶ、自分ではずして肩から服を寝台の上に、落としました。でも、袖で支えているから、はだかではない、です」
『前開きってことは、恥ずかしい場所はぜんぶ見えているんだ』
「は、はい」
『だけど鏡はまだ曇ったままだよ。おとねのすきなように、気持ちよくなれる場所を探して、俺に教えて?』
有弦に囁かれながら、音寧は片手で乳房を揉み、もう片方の手を下肢へ伸ばしていく。和毛をかきわけぬかるんだ秘蜜の入り口の蕾に指を当てれば、それだけで脳裏に閃光が迸る。
「ひぃあぁ……っ」
『ふふ。足を開いて、もっと自分の手でいじめて。胸の方の手も止めないで』
「有弦さ、ま……? あぁ、あぁんっ!」
もしかして鏡から見えている? そう思った途端、音寧の恥ずかしさが頂点にたどり着く。それでも快楽を追う身体は止められない。
蜜壺の入り口を包囲しながら秘芽を摘んで愛蜜を湧き上がらせた自分の指を蜜口に入れれば、ひとさし指一本では物足りないと中指も追加され、二本の指をバラバラに動かしながら蜜襞を擦りたてていく。きゅうきゅうと締め付ける蜜洞が求めるのはもっと太くて硬いものだけど、それでも与えられた刺激に身体は貪欲に反応する。もっと気持ちよくなりたいと残された指も秘芽をぐりぐり押し付けて、音寧の腰が弓なりに跳ねる。
「あぁ……もぅ、達ってしまいます……あぁ…ん!」
『達してもそのまま手を止めたらいけないよ。俺がいなくても自分で慰められるようにならないと』
「そんなっ……いやっ、有弦さまっ! そんなこと……はぅうんっ!」
そんなこと言わないで、自分がいなくても慰められるようになれだなんてひどいこと……心のなかで抵抗しながら、音寧はひくんひくんと身体を弾ませ、なおも終焉の見えない快楽にひとり溺れてしまう。
たとえ愛するひとが鏡の向こうで見ていてくれるからといって、こんなのはいや、毎日肌を重ねて愛を確かめたい、だけど気持ちいいことからは逃れられない、まるで悪しきモノに魅入られてしまったかのようで――……
「――姫!?」
勢いよく扉がひらく音と同時に、飛び込んできた軍服姿の資を前にした音寧は、その瞬間、鏡がパリンと音を立てたことに気づかないまま、甲高い悲鳴をあげた。
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