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第二部 初恋輪舞 大正十二年文月~長月《夏》

鏡越しの逢瀬 02

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「有弦さま……駄目ですっ、ってしまいます……っ」
『まだ、なかもさわっていないのに?』
「あ、ぁ……なか、も……さわって」
『自分でさわるんだよ』
「ひゃあっ」

 有弦の言葉に素直に従って秘処へ指を滑らせた音寧は愛液に溢れた蜜壺の媚壁を擦りたて、艶を帯びた声をあげる。

「あぁん、あぁ……ぃく――っ……ああんっ……っ!」
『ひとりで達けたね』
「――ひゃあぁ、有弦さ、まって……お顔が」
『おとねが上手に気持ちよくなったから、こうしてまた顔を見ることができたよ』
「んっ……恥ずかしい、です」
『いやらしくて素敵だった。とろんとした瞳をしているね。いますぐこの腕で抱きしめてあげたいくらいだ』
「わ、わたし、だって……有弦さまに」

 気持ちが緩んだのか、音寧の瞳からぽつり、と涙がこぼれ落ちる。
 ぎょっとする有弦に、大丈夫です、と笑って、音寧は告げる。

「……明日から資さまが護衛につくそうです」
『やっぱりあのときの“姫”は、おとねのことだったんだね』
「だけど、彼にわたしの正体を知らせてはいけないと、あやねえさまが……」

 未来から来た妻だと彼に伝えてはいけない――けれど、未来の夫を救うためには彼の精液が必要……そのことを鏡の向こうの夫に告げるのは、なぜだか憚られる気がして、音寧は黙り込んでしまう。

『そうだな。過去の俺は有弦じゃない、退役したばかりの役立たずな軍人だ』
「極秘任務に就かれていた軍人さんだったこと、あやねえさまからききましたよ」

 どうして教えてくださらなかったのですか、と責められるような眼差しを受けて、有弦は申し訳なさそうにあたまをかく。

『いつか話そうとは思っていたさ。けれど物事には順序がある』
「……身代わりの花婿だったことを黙っていた前科もありますしね」
『それを言われると弱いな』

 手厳しい妻の言葉にも嬉しそうに応じる有弦に、音寧も思わず笑ってしまう。
 有弦がいる世界はまだ音寧がいなくなってから数時間しか経過していないらしい。

 時間の流れが違う、という綾音の言葉はほんとうのようだった。
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