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第二部 初恋輪舞 大正十二年文月~長月《夏》
協力者は花盗人 01
しおりを挟む「……帝国第参陸軍特殊呪術部隊?」
「公にはされていない、日本軍の秘密部隊だから音寧が知らずにいたのも仕方がないと思うわ。退役した彼にも守秘義務ってものがあったでしょうし」
「そう、なのですか……」
――あやねえは、わたしの知らない有弦さまのことを知っているんだ……
チクリと痛む胸の異変を無視して、音寧は彼女の言葉を耳底へと叩き込む。
「時を味方につける時宮の姫君は、多くの殿方に狙われていたの。彼女に“精”を与えた者が、破魔のちからに肖れるから」
まるで他人事のように綾音は説明する。音寧が時宮の家から逃れた後に訪れた、破魔のちからを巡るあれこれを。
「狙われる?」
「誘拐されそうになったり、強姦されそうになったり、まぁいろいろあったわ。傑があたしを盗んでくれるまでは」
「盗、む……って、え!?」
――盗まれるのを警戒しているみたい。
四代目有弦の末の妹、多嘉子が言っていたのは、このことだったのだろう。
異能を持つ女を盗み、男の精を媒介に魔力を扱わせることで彼らは特別なちからを手に入れられる。綾音の場合はそれが時を味方につける強大な破魔の能力だから尚更狙われていたのだろう。そしてそのことを有弦……資もまた知っていたから、祝言を挙げた夜から音寧を監禁同様の扱いで洋館に留めさせたのだ。身代わりの綾音と比べてちからが弱いと思ってながらも、他の何者にも染められないように。
「お父様は年頃のあたしに破魔のちからを扱わせるために軍の協力を仰いだ。婚約者候補に値するであろう男たちの精液を媒介にして。そのうちのひとりが、岩波資……将来有望とうたわれていた特殊呪術部隊所属の軍人だった」
「うそ」
信じられない、信じたくないと音寧は耳を塞ぐ。
けれども双子の姉は残酷な現実を彼女に囁く。
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