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第一部 新婚夜想 大正十三年神無月〜大正十四年如月《秋〜初春》

空回りした溺愛の果て 01

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「叔母上が来たんだって?」

 仕事を終えて邸に戻ってきた有弦は憂鬱そうな表情をしている。無造作に着ていた服を脱ぎ捨て、下着一枚の恰好になると、フリルを幾重にも纏った、まるで藤の花が垂れ下がっているような淡い薄紫色の夜着を着た妻を抱き寄せ、耳元で問いかける。
 逃さないという意志を持った彼の腕に囚われた音寧は素直に首を縦に振り、弁解する。

「お庭を散策したのは、多嘉子さまに誘われたからです……」
「だろうね。だけど、邸から外に出てはいけない、と言われていたよね?」

 今夜はお仕置きだよ、と甘い口づけを受けて、音寧の身体がきゅんと震える。
 きつく抱きしめられた状態ではじまった彼の接吻は、小鳥が啄むような軽やかなものから、徐々に舌を彼女の口腔内へと侵入させていく過激なものへと変化していく。
 祝言を挙げて早三ヶ月、彼に躾けられた身体は口づけ一つで淫らに快楽を求めるようになっていた。壊れ物を扱うような丁寧な愛撫と口づけは今も変わらない。けれど最近はそれだけでは物足りないのか、彼はことあるごとに「お仕置き」と称して音寧を拘束する。
 ――あの、「やさしくしないで」と音寧が反旗を翻したときから。
 有弦は楽しそうに妻を寝台の上へ押し倒し、両腕を枕元よりも高い場所へと誘導する。

「着物の帯よりも、サテンのリボンの方が肌触りがいいかな……服はそのままでいいよ」
「……はい」

 あたまの上で両手首を黒いリボンで結ばれて、壁際の支柱に固定された音寧は、獰猛な瞳で見据えてくる有弦の前で、顔を赤らめる。

「そんな風に物欲しそうな顔して。かわいいな」
「……んっ、有弦、さま……」
「口吸いだけで瞳を潤ませて、俺を見つめてくれるんだものな……だけどこれはお仕置きだから」
「――きゃっ」

 どこから持ち出したのか、有弦は小刀を取り出して鮮やかに音寧の夜着を切りつける。
 夜着の下は何もつけていない音寧は、思いがけない彼の行動を前に悲鳴をあげる。
 はじめに断たれたのは右側の肩紐。ぷつりという音とともに、はらりと乳房が片側だけ顔を出す。

「!」
「美味しそうな乳首が顔を出したね。裸に剥く前に、味見しようか」
「っ、あん……」

 小刀をちらつかせたまま、顔をむき出しになった乳房に近づけ、有弦はいたぶるようにその頂に噛みつき、れろれろと舌を這わせていく。口淫を受けていないもう片方の乳首まで、勝手に勃ちあがってしまい、音寧は恥ずかしそうに首を左右に振って喘ぐ。

「どうしたんだい? こっちはまださわってもいないのに……」
「あ、ひ……」

 もう一方の肩紐だけで支えられている隠された乳房の中心部に舌を伸ばし、夜着の布地ごと彼が愛撫をはじめれば、音寧はもうひとたまりもない。彼女が彼の舌に溺れている間に、残された肩紐も小刀であっさりと切断され、彼が顔をはなすと同時につるりと身に纏っていた藤の花が散華するかの如く、寝台の上へと滑り落ちる。
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