時翔る嫁 双子令嬢と身代わりの花婿

第一部 新婚夜想 大正十三年神無月〜大正十四年如月《秋〜初春》

身代わり同士の苦悩 01

　岩波山の五代目有弦は罪の子である――……
　邸の庭園で彼の叔母にあたる多嘉子から聞いた、思いがけない真実に、音寧は言葉を失っていた。

「有弦さまが……罪の子？」
「傑が生まれて一年も経たないうちに生まれてきた彼ははじめ、四代目に認知されなかったの。朝子さまが身体を壊して以来、彼が使用人のひとりの照葉を欲求のはけ口にしていたことは誰の目にも明らかだったにも関わらず。彼は正妻が後継となる傑を生む前から照葉と関係を持っていたのよ。だけど彼はあの女が悪い、勝手に俺の庶子を生んだ彼女をクビにして、罪の子ともども岩波山から追い出してやるって騒いで……そのあいだに朝子さまが亡くなったこともあって、結局、三代目が彼を咎め、照葉を後妻に迎えるよう命じたの」
「それで……有弦さまは」
「資は傑の異母弟として、岩波家に迎えられたわ。照葉はふたりを同じように育てていたから、傑と資の仲は良かったのよ。ただ、四代目だけは最後までいい顔をしていなかったわね。自業自得だっていうのに、資には公家華族の血が流れていないから、って自分にも一滴も流れていないくせに傑と差別して。お前に岩波山を継がせるつもりはない、稼げるようになったらとっとと家を出ていけって」
「そんな……」

　有弦もまた、実の父親に冷遇されていた……音寧は自分の境遇と彼の境遇が似通っていることに気づき、表情を曇らせる。
　自分の場合は双子は不吉だからと破魔のちからを有していた姉の綾音を表に出され、母の死後は忌まわしい存在として無視されてそのまま桂木の家に引き取られたけれど……彼はずっと異母兄と比べられ蔑まれながら生きていたのだ。

「でも……それじゃあ岩波山の五代目有弦は」
「岩波傑が時宮綾音を娶る際に、襲名を行う予定だったの。だけどあなたも知っているでしょう……？」

　――大正十二年九月一日に起きたこと。