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第一部 新婚夜想 大正十三年神無月〜大正十四年如月《秋〜初春》
鏡の庭で識った罪 02
しおりを挟む「――これは、湖?」
「観鏡池、というのよ。いまの時期は凍っていることが多いんだけど、今年の冬は暖かかったから、完全には凍らなかったみたいね」
「ミカガミイケ……」
「日本様式の庭園を作ろうとした際に、庭師が勝手に作った池なのよ。だけどご隠居がこの場所にどうしても西洋式の四阿を設置するって言い出したから結局どっちつかずな池になっちゃったわ。向こうにちいさな鳥居があるでしょう? 岩波山の氏神さまを祀っているの」
観鏡池周辺のちぐはぐな景観を苦笑しながら、多嘉子は説明を加えていく。
岩波山、というくらいだからどこかに山があるのかと思っていた音寧だが、茶園そのものを「山」と呼ぶのだと有弦が教えてくれた。そのときに庭先に氏神さまを祀っていると伝えてくれたのなら、お参りに通ったのに……どうして何も言ってくれなかったのだろうと音寧はため息をついてしまう。
「ごめんなさいね、庭の奥まで連れ回しちゃって。四阿で一休みしましょう?」
* * *
多嘉子に案内された四阿は正確には西洋の庭園でみられるガゼポ、と呼ばれるものらしい。周囲には冬でも咲く紅色の薔薇が植えられており、冬の澄み切った空気を嫌味にならない程度に、ほのかに甘く香らせていた。
平面から見ると八角形になっているという白い屋根と柱で作られている木造の建物のなかに設置されていたベンチに腰掛け、音寧はきょろきょろと改めて周辺を見回す。
「邸のお庭がこんな風になっていたなんて……知らなかったです」
「そうよね、ここは岩波家の人間ですら最近は立ち寄らない場所だから」
「そうなのですか?」
「もともと別邸はご隠居が老後に夫婦で暮らすために作った別荘よ。遊び心のある庭先や当時にしてはハイカラな北欧風の建物は、亡きお母様の趣味。わたくしはまだ幼かったからこの邸で成人まで暮らしていたけれど、ふたりのお姉さまと四代目は日本橋本町で生まれ育っているから、ここに住んでいたわけではないのよ」
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