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第一部 新婚夜想 大正十三年神無月〜大正十四年如月《秋〜初春》

甘い束縛と恋する虜囚 02

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「――すまない。怖かったよな……おとね?」


 吐精とともに酔いも醒めたのか、有弦が我に却る。怒りに任せて「優しくしないで」と言い放った妻を束縛し、無理矢理抱いた自分に後悔したものの、興奮してしまったのも事実だ。
 彼女はそれでも自分を受け入れ、有弦が望むように身体を繋げてくれた。

 ――お慕い、しております……ゆうげん、さま……

 情事の最中にぽとりと零れたその言葉が偽りのものだとは、どうしても思えない。
 意識を失った妻の身体をそうっと横たえ、縛っていた着物の帯をゆっくりとはずしていけば、手首に赤い痕ができている。

「おとね……俺は、ひどい男だぞ?」

 きっと真実を話しても、彼女は素直に自分のことを受け入れてくれるだろう。けれど、いまはまだ……自分が死んだ双子の姉の代わりに嫁いできたことを負い目に感じている彼女に、ほんとうのことを伝えるのは、酷だろう。いや、有弦が話す勇気を持てていない、それだけの話かもしれない。
 ……自分もまた、本物の五代目岩波有弦ではない、身代わりの花婿でしかないことを。

「なのに、貴女は……」
「……ん」

 戒めの痕に口づけて、有弦は自嘲する。意気地無しの自分と違って、彼女は自身のことを「姫なんかじゃない」と宣言したうえで、岩波山の嫁として自分と添い遂げたいと態度で示してくれた。
 岩波山の五代目として死ぬ前の傑に追いつくためにも、時宮の高貴な血を引く後継が必要だということは痛いほど理解している。音寧もその掟に縛られ、有弦との情事に身を投じている。ほんとうは、無知な自分より傑のような男の方が、彼女を幸せにできるのかもしれない。こんなにも彼女をいとおしく想うようになって初めて、有弦は自分が至らない人間であることを痛感したのだ。


「傑……俺が死ねば良かったのにな」


 弱々しく吐き出した彼の泣き言が、意識を取り戻した音寧の耳底にこびりついてしまったことなど、夢にも思わず。
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