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第一部 新婚夜想 大正十三年神無月〜大正十四年如月《秋〜初春》
呪詛と渇望 04
しおりを挟むまだだ――まだ足りないと、子どものように擦り寄ってくる彼のおおきな身体を抱き返して、音寧も恥ずかしそうに、両脚をもじもじさせる。口づけだけで疼き出す身体の反応に戸惑うことも、いつしかなくなりつつあった。
彼の手は勃ちあがっている音寧の両乳首に移動している。ふれられただけで楽器のように高い声で啼く妻を奏でながら、未だに潤ったままの蜜壺へ楔を打ちつけ、絶頂を教え込む。
彼に求められ、与えてあげられる歓び。
彼と男女の交わりを通じて、官能の海に浸れる悦び。
子を為すまでとはいえ、こんな風に閉じられた世界で愛の言葉を囁かれながら結ばれる日々は甘くて、音寧をしあわせな気持ちにさせた。
けれど。
目を覚まして隣に彼がいないと不安になってしまう。
ほんとうは、姉の綾音が彼にこんな風に求められて、執拗なまでに愛されたのではないだろうか。
しょせん自分は、時宮の血を持っているだけの、双子令嬢の無能な片割れでしかないのだ。呪詛にも似た岩波山の掟だって、男特有の勝手な言い分かもしれない。
――わたしは、有弦さまにふさわしい花嫁じゃないのに。
彼と肌を重ねつづけていると、本当に愛されていると勘違いしていまいそうだ。
彼はただ、本能のはけ口に、綾音と姿形の似た音寧を求めているだけ。
子を為したら、お役御免と棄てられてしまうのではなかろうか。
もしそうなってしまったら、自分から離縁を口にして、潔く姿を消してしまおう。
それまでは、偽りの花嫁でも構わない、時宮の姫君として、彼の傍に……
五代目有弦もまた、身代わりの花婿であることを知らされていなかった音寧はそう思い込んだまま、心に蓋をして、彼に求められるがままに身体を捧げる日々に没頭していくのであった。
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